去年より若干薄くなった年賀状の束を一枚一枚めくっていく。十年前は子どもの写真が多かった。生まれてから五年くらいは彼女たちの子どもの成長を、当時は自分がそれに類似する年賀状を出せない焦燥感を抱きつつ見守っていたのだが、最近は写真付き年賀状も減り、それはそれで寂しかった。

 

 シホさんを目標にしてるんです、と言ってくれた後輩がいた。その言葉を聞いた三年後、彼女は結婚して配偶者の仕事の都合でシンガポールに行ってしまった。時々開くSNSでは彼女が駐在員の妻ライフを謳歌している様子が目に入る。仕事を捨てさせる存在って、いったいどんなものなんだろう。出会ったときいったいどんな気持ちになるんだろう。手に入れた幸せは好きな仕事ができる幸せを凌駕するのだろうか。

 一月四日の初出勤は、翌日が土曜日だったためまだ出社していない人が多く、同僚のほとんどがまだハワイやら台湾やらセブ島やらから戻ってきていなかった。その日は担当企業の一つである化粧品ブランドのイベント打ち合わせが二件あるだけで、しかもブランドの担当者が不在(ハワイ)だったため、会場となる日比谷および六本木の商業施設の広報担当者と新年のあいさつのようなユルい打ち合わせをしたあと、早い時間から高校の同級生と西麻布の中華料理屋で落ち合った。大学進学を機に東京に出てきて、一度は結婚したが子どもを産まずに離婚し現在は独身の彼女は、老舗のお茶屋さんで働いており、三年ほど前に新設の部署のなんとかマネージャーという肩書を与えられているが詳細を忘れた。

 「いやーもう、マジで誰も来んかったわ今日」

 私よりも二分くらい遅れて店に入って来た真緒はコートを椅子の背もたれにかけ、音を立てて腰を下ろした。

 次ページ → 恋愛や結婚を必要としない人種がいることを……