夫からトミーへ、極秘のメール

親愛なるトミーへ(少々急ぎのメールです)

先日はウェブで、久しぶりに君に会えてうれしかったよ!
ロスの取引で出会ってから、もう10年になるんだね。
僕とトミーのトークに、みんなびっくりしてたぜ。
トミーとビジネスパートナー、そして友人になれたおかげだな。

ところで、この間のUSA foodとの取引の件だけど、
概算見積もりを見たボスがカンカンに怒っちゃって。OMG!

実は、君とノリノリでディスカッションするうちに、
会社の懐事情を考えずに見積もってしまって。
申し訳ない、いったん破棄してくれるかな?

明日の日本時間の午前11時、その件でボスから呼び出されて、
ウェブミーティングなんだよ。WOW!

そこでトミー、君もちょっとだけ顔を出せないかな?
君からもボスに「ノープロブレム」と言ってもらえたら、超~助かる。

……っていうか。もう正直に言っちゃうよ!!!!
僕が本当に恐れているのは、会社のボスではない。
本当のボスは、今、僕の部屋の壁の向こう側にいるんだ。

そ・れ・は、妻だ。

僕のワイフは、地獄耳。
別の部屋でウェブミーティングをしている僕の様子を、まるでイルカ並みの聴力で聞き取り、社内の僕の立場や状況をつぶさに把握。その読みは恐ろしいほどに的確だ。

例えば僕が、上司に企画の甘さを突かれてコーナーに追い込まれているとき。例えばパソコンの画面越しに、後輩から「あれ? 先輩、髪形変えました? イメチェンすか?」と軽くいじられているとき。例えば素晴らしいプレゼンをする同期に圧倒され、僕がしどろもどろで終わるとき!

僕は感じる……んだ。壁の向こうに、妻の舌打ちを。
(もごもごしてんじゃないわよ。男の意地を見せなさいよ)
って心の声も。

男は外に出ると7人の敵がいると、日本では言う。
だけどねトミー、僕にとっての8人目のラスボスは、家の中にいるんだ。
このプレッシャーが君に分かるかな?
こんな非常時こそ、壁の向こうのラスボスに、
僕が誇る英語力をアピールしなければいけない!

お願いだから、僕を助けて。
トミー、僕たち、TO・MO・DA・CHIだよね!?

優太より

構成・文/さくらいよしえ イラスト/カツヤマケイコ