常に「何のためにやるのか」を意識していた

尾原 こんなこともありました。素材開発で新しい糸を作っていたときに、すごくいいものができあがったんですね。これは本番販売を進めるべきだと上司に提案したら、「これまでの糸に比べて用途的に難しいよなあ」と難色を示されました。製品化する前に試験的に糸を紡ぐのですが、通常は重さ10キロとか20キロの単位でやるところを、私は「それでは500キロ位やりましょう。私が売ります!」と提案しました。商品開発では紡績会社や機屋(はたや)さん、小売業などいろんなところへヒアリングに行っているので、そのときに「こんないい糸ができたんです」と見せたら気に入ってもらえる自信があったんです。おかげさまで後に定番の糸になりました。

 私が強く出られたのは、現場を知っていたということも一つ大きいですね。当時アメリカという、日本よりだいぶ先を行っているファッション・ビジネスの世界で、プロフェッショナルがどんなことをやっているかというのを目の当たりにしていましたから。

 私は人から頼まれたことや、自分のためだけのことで食い下がったことはありません。Facebookを創業したマーク・ザッカーバーグは母校ハーバード大学の卒業式での来賓スピーチで、「パーパス(purpose、目的)」を持って仕事や勉強をしてほしいということをしきりに言っていましたよね。私もまさにそうで、常に「何のためにこれをやるのか」を意識していました。目的がしっかりあれば、それを達成するためにあれこれ道を探ることは、何の苦でもありません。正面突破がダメなら何か別の方法はないかと考えるのは、むしろ楽しいことでした。

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ライフシフトには働く目的と「資産」が必要

構成/谷口絵美(日経ARIA編集部) 写真/稲垣純也