笹木 そうです。せっかく商品の良さもストーリーもそろっていて、会社のサイトなどにもしっかり書かれているのに、それが十分には伝わっていないと感じました。

 私が入社した2015年当時のバーミキュラの鍋は、情報通の人は知っているけれど、知らない人のほうが多いという印象でした。百貨店の売り場でも、鋳物ホーロー鍋ではル・クルーゼやストウブといったフランスの製品が人気で、国産のバーミキュラは無名で後ろに追いやられていて、ブランドに対する世間の評価はまだまだ低い。2010年の発売当初こそ、『日経ビジネス』で紹介されたのをきっかけにテレビなどでも露出があり、初年度に納品まで15カ月待ちという異例の人気になったバーミキュラでしたが、その後のPRが不足してメディア露出は激減し、納品待ちを解消すべく生産体制が月産50個から月産2000個に拡大できた頃には在庫が余るように……。2015年はそんな状況でした。

「刺さるポイント」はメディアごとに大きく異なる

―― どんなPR戦略を立てたのでしょう?

笹木 基本的にはエアウィーヴの時と同じで、「実績を作り、メディアで広める」を柱にしました。実績はシェフや料理研究家にアプローチ。メディアに対しては、メディアごとに「刺さるポイント」を意識して資料を作り変えました。例えば、男性誌ならメイドインジャパンの良さ、一つの鍋ができるまでの複雑な工程、赤字からの脱却ストーリーを強調し、料理系メディアには「実はこんなレシピも簡単にできる」という情報や愛用者のSNS投稿などを紹介。また、幅広い層が見るテレビなら「水なしでカレーが作れる」という驚きが一目で伝わるように調理前と調理後の映像を、といった具合です。これが、3原則で説明した「伝える温度」なんです。

メディアごとに読者や視聴者をイメージして、PRポイントを変えて提案する
メディアごとに読者や視聴者をイメージして、PRポイントを変えて提案する

笹木 こうしてきめ細やかにPR活動を継続していると、男性向けモノ雑誌に商品情報だけでなく企業背景も含めて紹介する記事が掲載され、テレビでも取り上げられるようになりました。ところが、メディア露出が増えたにもかかわらず、半年くらい全く注文が増えない状態が続いたんです。これは想定外でした。

―― 露出が増えたのになぜ売れなかったのでしょう? その後、急に売れだした理由は?