モデルやコラムニストとして幅広く活動するクリス-ウェブ 佳子さん。センスあふれる写真とともに、ファッションやカルチャー、政治や恋愛、離婚、時にはは卵子凍結まで……実に幅広いテーマをユニークな視点で語ってきました。ARIA創刊から続いたこの人気連載も残念ながら今回が最終回。連載開始当初、「幸せ模索中」だった、あの頃を振り返ります。

2019年4月、カメラロールに残る1枚の写真

 私の携帯電話のカメラロールには離婚届の写真が1枚保存されています。届け出日は「平成31年4月12日」。

私の携帯電話の中にはさまざまな日々が刻まれている
私の携帯電話の中にはさまざまな日々が刻まれている

 用紙の左半分は夫婦の記入欄で、右半分は証人の欄。元夫が書いたのは彼の名前と職業、そして彼の両親の名前だけで、その他は私が入魂。協議離婚のときにだけ必要な証人の欄には元夫と共通の友人、そして私の所属事務所の社長が私よりもずっときれいな字で記入し、快く判を押してくれました。二人にお願いしたとき、なにやら両者とも「私でいいの?」とうれしそうで、でも実際に書くときはかなり緊張した様子でした。これまでの人生で人に借りをつくることはあまりしてきませんでしたが、二人には大きな借りができました。

 ほとんどの疑問が解決でき、追体験もできるインターネットに頼らず、何も調べぬまま区役所へ離婚届を取りに行った日。すいていたのでまっすぐにカウンターへ向かい、唐突に「離婚届をください」と伝えたら、担当の女性が「あっ、はい!」とビックリされた様子で対応してくれました。

 数冊のパンフレットと離婚届を手に戻ってきたその女性は、先ほどよりも少し小声で、間違えたときのために用紙を2枚用意したと伝えてくれました。それから離婚の手引書みたいなパンフレットについても、これまた小声で説明してくれました。婚姻届を提出する際にはない手引書。それがあれば離婚件数も減るかもですねぇ、なんて話しながら、まるで喫茶店で小声で雑談しているかのようなおかしな気分になったのを覚えています。