安定したポジションがあるのに、あえて新しい一歩を踏み出したARIA世代の起業家に話を聞くこの連載。AI(人工知能)の世界で数少ない女性起業家として注目を集めているバオバブの代表取締役、相良美織さんは商社で一般職のお茶くみOLとして社会人生活をスタートしました。貯金ゼロになりながらも40歳で科学技術の最先端を走る分野で起業するに至った経緯とは? 女子大を卒業してから起業に至るまで、波乱万丈の軌跡を聞きました。

(上)お茶くみOLから最先端AI業界で創業 波乱のキャリア ←今回はココ
(下)AIで戦う会社の宝は22カ国800人の在宅ワーカー

 バオバブは2010年に創業。異なる言語を自動で翻訳するための学習データを構築する事業からスタートし、日本でも数少ない「アノテーションデータ」の作成を手掛ける企業として急成長を遂げています。アノテーションとはAI(人工知能)に学習させるためにテキストや音声、画像などのデータにタグをつける作業のこと。クライアントにはカーネギーメロン大学やトヨタ自動車など国内外有数の企業や大学が名を連ねています。

バオバブ代表取締役の相良美織さん。20代のころは一般職OLで「社長になるなんて思ってもみなかった」
バオバブ代表取締役の相良美織さん。20代のころは一般職OLで「社長になるなんて思ってもみなかった」

 女子大英文科卒でバリバリ文系だった相良さんがAI技術に関わるようになったきっかけは何だったのでしょうか?

入社した商社は「寿退社するのが女の花道」

―― 大学を卒業して最初は商社にお勤めでしたね。そのときはいつか起業をと考えていたのでしょうか?

相良美織さん(以下、敬称略) いいえ、私の場合、女子大を出て総合商社の事務職がキャリアのスタートで、キラキラでもバリバリでもないです。その頃の商社では、男性社員のお嫁さん候補として、海外駐在について行ってもうつ病にならない程度にタフで、家庭をしっかり支える女性が好まれて採用されていました。私はタフ組ですね。入社式では、「4年目のボーナスをもらい寿退社するのが女の花道だ」とはっきり言われました。その時点で「あれ?」と思いましたが、お茶くみやコピー取りも仕事は大好きでした。でも周りを見回すと先輩女子社員がいない。これは長く働けないぞと思いました

―― 確かに寿退社が当たり前、「女性は職場の花」という時代でしたね。

相良 退職してNPOでのボランティアを経て、また別の総合商社に入りました。そこではどんどん仕事を任せてもらえましたが、あるとき男性社員と同行した取引先で「こんな若い女性と仕事ができていいね。うちなんて30過ぎのババアばっかりだよ」と言われたんです。私がちやほやされているのは仕事ができるからではなく単に若いからなんだ、と気付きました。「これはヤバい」と思い、今度はメリルリンチ日本証券に転職。外資系企業に仕事での男女差はありませんでしたが、学歴ヒエラルキーが非常にはっきりしていました。トップに君臨するのはハーバード・ビジネス・スクールとペンシルバニア大学ウォートン校。「君は犬以下だね」と面と向かって言われました。しかも夜中の3時が午後3時みたいな昼夜ないハードワーク。「ここも長く勤められない」と思ったとき、彼らのいう“トップ”とはどういうところなのか見てみたくなったんです。