新しい一歩を踏み出したARIA世代の起業家にお話を聞くこの連載。今回は、東日本大震災の衝撃をきっかけに、起業への道を踏み出した黒田千佳さん。学校への欠席連絡を24時間受け付けるシステム「COCOO(コクー)」は、教育現場の課題を解決するツールとして注目されています。49歳で起業するまで、多様な経験をしてきた黒田さんが、どのように事業を成長させたのか。開発への思いを聞きました。

(上)英語を話せない私がMIT審査員賞→起業 人生は想定外
(下)学校への欠席連絡をIT化 「誰でも使える」を徹底した ←今回はココ

職員室に人がいなくても欠席連絡が受けられる

編集部(以下、略) 「世界防災・減災ハッカソン※」から誕生したプロダクトは横浜市のオファーを受け、緊急時連絡システムとして事業化しました。次に手がけたのが学校に向けた欠席連絡を24時間受け付けるシステム「COCOO(コクー)」ですね。

※エンジニアやデザイナーなどソフトウエアの開発者が集まってチームを結成し、短期集中的に開発作業を行うイベントのこと

黒田 私の中ではずっと、弱者や未来を担う子どもたちの役に立つことをしたいという思いがありました。ちょうど横浜市が教育のイノベーションを進める事業を立ち上げることになり、何かアイデアがないかと声がかかりました。

 今の教育現場の課題は何だろう。誰もが使えるコア技術を生かして課題を解決するシステムができないかと考えているうち、ハッと思い付いたのが「欠席連絡」です。学校への欠席連絡は私が子どもの頃の50年前と変わっていないなと。子育てしながら働いていた当時も、学校への欠席電話が話し中でつながらず、通勤途中の乗り換え駅のホームで電話をしながら、仕事と子育てに格闘していた記憶がよみがえってきました。

 学校と家庭の連絡方法は今も、連絡帳や電話、紙のプリントが主流です。欠席連絡の電話は先生たちが職員室に来る朝8時から授業が始まるまでの15分間に集中します。欠席連絡を自動受信して出席簿の作成まで一括でできれば、先生も朝の時間に余裕ができて授業の準備ができる。保護者も24時間いつでも連絡できれば楽になると気付いたんです。

黒田千佳 137代表取締役 事業構想大学院大学特任教授
黒田千佳 137代表取締役 事業構想大学院大学特任教授
くろだ・ちか/1965年生まれ、警察官として勤務後、結婚・出産で退職。パソコン講師などいくつかの仕事を経て、県警に非常勤職員として復帰。2005年、日能研グループで日本エキスパートセキュリティの立ち上げにコアメンバーとして参画。12年、事業構想大学院大学に入学後、同社を退社。14年、MIT Climate CoLab Conferenceのグローバルファイナリストとして審査員賞を受賞。同年、137設立。日本政策投資銀行主催 第8回DBJ女性新ビジネスプランコンペティション「DBJ女性企業大賞」「最優秀ソーシャル・デザイン賞」受賞。MIT Climate Colabメンバー

黒田 コクーの機能を使えば、職員室に人がいなくても24時間連絡を受け付けて、集計も自動で表示します。スマホが使えない家庭でも電話があれば情報の受発信ができる。「誰1人取り残さない」という思いから、電話の音声は多言語対応で設計・開発しました。欠席連絡だけでなく、文字を読むのが難しい家庭でも、学校からの情報を音声情報でも受け取れ、家庭からの回答はプッシュ回線でもできます。

―― コロナウイルスの感染拡大で、欠席が劇的に増えるフェーズが何度もありましたが、事業化はいつ頃でしたか。