ARIA世代で新しい一歩を踏み出した起業家にお話を聞くこの連載。今回は山梨県甲府市で外国人向け人材派遣業などを展開するアンサーノックスを立ち上げた渡辺郁さん。同社では20代から80代まで、外国人3人を含む社員16人が働き、事業所内に企業主導型保育園も展開中。2019年には経済産業省が選ぶ、「新・ダイバーシティ経営企業100選」に選ばれました。働きやすい社会を目指す渡辺さんの原動力となっている思いを聞きました。

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盗難に合って気づいた大事なこと

編集部(以下、略) 創業から10年目の2018年には企業主導型保育園を設立したり、社内のトイレにアメニティーグッズを常備したり、働きやすい職場環境ですね。

渡辺郁さん(以下、渡辺) 外国人だけではなく、LGBTやシニアなど、働きづらい方の役に立ちたいと考えるようになりました。社会に役に立つ企業をソーシャルな企業といいますけど、すべての企業は本来、社会の役に立つべきだと思います。

 そう考えるようになったのは今から5年以上前ですが、会社にあったお金を盗まれたことがありました。警察に届けたり、セコムをつけたりしたんですが、お金は戻ってきません。そのとき思ったのが、「あのお金で社員旅行に行っておけばよかった」ということでした。それまでケチケチ節約していましたが、そのお金がなくても会社が続けていけているのだから、これからはもっと居心地のいい職場になるためにお金を使おうと。会社の利益はできるだけ社員に分配したほうがいい。

 社内に保育園があれば安心して働けるし、赤ちゃんがいるとみんなも和やかに過ごせる。保育費は無料で、朝ごはんやおやつの費用負担もありません。私は結婚もしてないし、子どももいません。どちらかというと、子どもは苦手だったんですが、今は「みんな自分の子どもだ」って思えるようになりました。

保育園は派遣スタッフなら完全無料。英語教室のほか、百人一首などの日本の文化に触れる言葉の学びも取り入れている
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渡辺 だからお金を盗まれたこともいい経験でしたね。そういうマイナスがなかったら大きく変えることはできなかった。支えてくれた周りの人がいたから続けてこられたので、本当に感謝しています。