ARIA世代で新しい一歩を踏み出した起業家にお話を聞くこの連載。今回は山梨県甲府市で外国人を対象にした人材派遣サービスや家事代行業などを展開するアンサーノックスを立ち上げた渡辺郁さん。20代は大手人材派遣会社で働き、女性初の1Qでの売り上げ1億円を達成したという営業手腕の持ち主ですが、高校までを過ごした山梨に戻って起業した理由は意外なことでした。

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あまりにひどいコンプライアンスに衝撃を受けた

編集部(以下、略) 渡辺さんは高校時代までを実家のある甲府市で過ごし、その後は東京で仕事をしていたわけですよね。起業をしようと思って甲府市に戻ったのですか?

渡辺郁さん(以下、渡辺) よく「最初から起業するつもりだったのでしょ?」と聞かれますが、甲府に戻ったのは療養のためで、そのときは自分が起業するとは全く思っていませんでした。バセドー病にかかり、30歳から7年間、療養していて、ひどいときは体重が38kgまで落ちたこともありました。

 30代後半になり、やっと回復してきたので仕事を始めたんです。外国人を対象にした派遣会社に営業として入ったのですが、これまでの職場とのギャップに衝撃を受けました。コンプライアンスの精神がなくて、有休もないし、登録スタッフの時給も額面通り支払わない。送迎や通訳などの費用も登録スタッフの自己負担でした。

 一方で、そんな状況でも働く外国人スタッフが多いことにも驚きました。みんな工場で黙々と日本の製品をつくっていて、ユニオンもなく、不満を言うと「嫌なら辞めろ」と言われる。多くの外国人が不利な状況で働いている事実に愕然(がくぜん)としていたとき、甲府市が多文化共生推進計画策定委員を募集していたので応募しました。そこで外国人の9割が派遣スタッフとして働いていて、甲府市は外国人の割合が多いことを知りました。

 そんな理不尽な状況を目の当たりにして、何か役に立ちたいと思うようになったのです。

アンサーノックス代表取締役の渡辺郁さん。人材派遣業や家事代行業など、外国人労働者を取り巻く問題、少子化や女性の活躍推進などを事業として展開するだけでなく、大学や自治体とも連携して社会課題解決を目指している
アンサーノックス代表取締役の渡辺郁さん。人材派遣業や家事代行業など、外国人労働者を取り巻く問題、少子化や女性の活躍推進などを事業として展開するだけでなく、大学や自治体とも連携して社会課題解決を目指している

―― それで外国人を対象にした人材派遣会社を起業したのですね。

渡辺 はい。あまりに搾取がひどいので会社は7カ月で辞めることにして、お世話になった取引先に挨拶にいったら、「出資するから自分で会社をやれば?」と勧められたのがきっかけです。