安定も、確かな地位もあるのに新しい一歩を踏み出したARIA世代の起業家にお話を聞くこの連載。100万部を超えるベストセラー『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』(日経BP/共訳)など数々のビジネス本を手掛ける人気翻訳家の関美和さんは2021年5月、20年来の友人であるキャシー・松井さん、村上由美子さんとともにベンチャーキャピタル(VC)ファンドを立ち上げました。56歳での新たな挑戦。起業への思いを聞きました。

 外資系投資機関を43歳で退職し、ゼロから翻訳の仕事に飛び込んだ関美和さん(参照記事:『人気翻訳家・関美和 人生の転機は45歳のどん底離婚』)。これまでビジネス本を50冊以上手掛け、翻訳家として順調に活躍する中で、新たにスタートアップを支援するファンドを設立。目標額160億円というスケールにも注目が集まりました。

社会課題に取り組む起業家を支援したい

編集部(以下、略) ゴールドマン・サックス証券を2020年に退職したキャシー・松井さん、経済協力開発機構(OECD)東京センター元所長の村上由美子さんと3人でベンチャーキャピタルファンド「Mパワー・パートナーズ・ファンド」を立ち上げましたね。翻訳家として活躍していたところから、独立系のファンドを立ち上げるという新しい挑戦に驚かされました。設立はどういうきっかけからですか?

関美和さん(以下、関) 一緒にファンドを設立した村上さんとは20代の頃、ハーバード・ビジネススクールで知り合いました。村上さんとキャシーさんはゴールドマン・サックス証券に同じ年に入社され、私がファンドマネージャーをやっていたとき、仕事でつながりができ、20年以上の付き合いになります。

 最初に村上さんが「やらない?」と声をかけてくれて。私自身、エンジェル投資家として社会課題に取り組む起業家を支援したいと思っていたところだったので、その延長線上で仲間と一緒にできるならいいなと思いました。もともと投資畑が長かったので、ぜひ若い起業家を支援したいと。2020年にはキャシーさんが会社を辞めて加わることになり、村上さんもOECDの仕事に区切りをつけたので、私は「2人についていきます」という気持ちでした。

(左から)関美和さん、キャシー・松井さん、村上由美子さん。国内外の金融業界で活躍した3人がESG重視型のファンドを設立。ファンドの資金総額は約1億5000万ドル(約160億円)を予定している(写真提供/関さん)
(左から)関美和さん、キャシー・松井さん、村上由美子さん。国内外の金融業界で活躍した3人がESG重視型のファンドを設立。ファンドの資金総額は約1億5000万ドル(約160億円)を予定している(写真提供/関さん)

3人とも親が起業家という共通点があった

―― 3人とも、同じ56歳ですね。

 はい。国内外で長く金融機関に勤めてきたという共通点もあり、偶然にも1965年2月生まれと誕生月も一緒だったので、毎年お誕生日を一緒に祝ったりしてきました。

 実はほかにも共通点があって、村上さんのお母様は40代でドラッグストアを立ち上げた女性起業家、キャシーさんもお父様が米国で苦労の末に起業し、今では全米最大の蘭農園を経営されています(参照記事:『妹たちへ キャシー・松井 移民の両親から学んだこと』)。私も父がチロルチョコという会社を経営していて、苦労した時期も見てきました。それぞれが起業家の家に生まれ、次の世代の起業家を育てたいという気持ちがありましたし、自分自身も起業したいという気持ちもありました。

―― 160億円という目標規模も独立系ファンドで日本最大級ですし、女性だけで立ち上げたというのもこれまで例がないことだと思います。周囲の反響はどうでしたか?