安定も、確かな収入もあるのに新しい一歩を踏み出したARIA世代の起業家に話を聞くこの連載。大学教授やインターネットベンチャーの経営者、エイベックスエンターテインメントで動画配信サービスの開設などを経て、61歳でピーステックラボを起業した村本理恵子さん。その事業が軌道に乗るまでの道のりを話してもらいました。

(上)61歳なら「あともう1つ新しいことができる」と起業 ←今回はココ
(下)上場達成で味わった挫折 40代の失敗から学んだこと

「所有」から「シェア」に時代が変わる

編集部(以下、略) ピーステックラボが2018年に開始した「アリススタイル」は家電や美容グッズを簡単に個人で貸し借りできたり、企業提供の商品もレンタルできたりする新しいサービスですね。「物のシェアリング」という消費者ニーズをいち早く具体化した事業アイデアはどこから生まれたものですか?

村本理恵子さん(以下、村本) 昔からよく世の中の動向を考えるんです。この先、日本の経済はどうなるのか、消費はどうなるのか。日本の経済は昔のように良くなる方向ではなく、もっと格差が広がるだろうと思います。起業を考え始めた2016年頃に、これまでの20世紀型経済から21世紀型への転換点が2020年頃にくるだろうと予測していました。所得の格差や無駄の多さをみたとき、「所有」から「シェア」に消費が変わると考えました

 もう1つは、当時オンデマンドでコンテンツを楽しめる動画配信サービスを担当していたので、物でも同じことができるんじゃないかと。時代の背景と自分のやっていたサービスがつながると思いました。

まだ新しいことをするエネルギーがある

―― 起業しなくても当時在籍していたエイベックスで新規事業を始めるという選択肢もあったと思いますが。

村本 新しいことをやるのに、その会社がベストな環境であれば良いですが、やりたいことと会社の事業が合わないこともあります。会社の中でやるか、外に出てやるかを考えたとき、独立したほうがいいと思った。当時61歳でしたが、自分の年齢を考えたら少なくともあと1つ、新しいことをするエネルギーが残っていると思ったんです。それで起業しました。

「シェアリング」をキーワードに新しいサービスを開始したピーステックラボ代表取締役の村本理恵子さん。プライベートでも友人とシェアハウスに暮らしている
「シェアリング」をキーワードに新しいサービスを開始したピーステックラボ代表取締役の村本理恵子さん。プライベートでも友人とシェアハウスに暮らしている

―― 2016年当時でいうと、シェアリングやサブスクというサービスはまだ世の中に広まっていませんでしたよね。

村本 動画配信サービスを手掛けていたのでサブスクに抵抗感はありませんでしたね。物を買わないで貸し借りするということが、世の中の言葉でいうと「シェアリング」だというのは後でつながった。世の中にまだ広がってないからこそ面白い。私の中では「新しいことをやりたい」という気持ちが強いんです。

 当時はサービス内容をユーザーに話しても「いいね」とは言われなかったと思います。世の中に出て、形になって初めて「いいね」と言ってもらえる。でも、そういうサービスのほうが広がるという確信があった。誰も手掛けてないからこそやりたいと思いました。