安定も、確かな地位もあるのに、新しい一歩を踏み出したARIA世代の起業家にお話を聞くこの連載。IBMやGEなど超一流のグローバル企業でマーケティングやコンサルティングの要職に就いていた伊藤久美さんは、51歳のときに、まだオフィスもない、創業したてのヘルスケア分野のベンチャー企業4U Lifecareに、第3の創業メンバーとして参加しました。伊藤さんを突き動かした原動力は何だったのでしょうか?

(上)外資を辞めて1年間休むはずが創業メンバーに ←今回はココ
(下)ベンチャー社長は元専業主婦・元契約社員

仕事を辞めて “100のこと”をするつもりだった

 伊藤久美さんが参加した4U Lifecareは、現在約71万人とも言われる「潜在看護師」(看護師の資格があり、現在看護師として就業していない人)を、ITを使って医療・介護などの現場につなぐマッチングサービスを行う会社。看護師資格は持ちながら何らかの事情で仕事から離れており、フルタイムではなくすき間時間なら働けるという人と、看護師不足で困っている現場を橋渡しする事業です。

―― 超一流のグローバル企業を辞め、まだオフィスもない4U Lifecareに参加しようと決断した決め手は何だったのでしょうか。

伊藤久美さん(以下、敬称略) ちょうどそのとき、GEヘルスケア・ジャパンを辞めようと思っていました。会社の体制が変わり、自分がやるべきことも一段落していたので、今が離れるいいタイミングではないかと思っていたのです。辞めたあとは、とりあえず1年間は仕事をせずに“寝て暮らそう”、今までできなかった趣味や勉強を思い切りやろうと決めていました。映画を100本見る、海外ミステリーなどの本を100冊読む、ポルトガル語を習うなど、その1年間にする“100のことリスト”も作っていたんです。

4U Lifecare代表取締役社長の伊藤久美さん。「昨年から『代表』がついてしまって。資金繰りなど経営面の責任が重くなったと感じます」
4U Lifecare代表取締役社長の伊藤久美さん。「昨年から『代表』がついてしまって。資金繰りなど経営面の責任が重くなったと感じます」

 ちょうどそんなときに、以前仕事で少しだけご一緒したことのある元セールスフォース・ドットコム社長の宇陀栄次さんと、現役医師でありながら起業家として次々と新しい事業を手がけている武藤真祐さんから、「医療をITで変え、潜在看護師が活躍できる仕組みを作りたいのだ」と、創業したばかりの4U Lifecareの話を聞かされたのです。