安定も、確かな地位もあるのに新しい一歩を踏み出したARIA世代の起業家にお話を聞くこの連載。日本長期信用銀行を経て30代で米国留学し、世界銀行で途上国の支援に携わってきた小木曽麻里さん。帰国後はファーストリテイリングでダイバーシティ推進担当部長などを務めた後、2021年、自らの手でSDGインパクトジャパンを設立。その起業のストーリーとファンド設立に込めた思いを聞きました。

(上)「投資でジェンダー平等を進めたい」ファンド設立を決意 ←今回はココ
(下)世界銀行で働き、初めて自分のバイアスから自由になれた

今ならビジネスとして社会課題の解決に向き合える

編集部(以下、略) SDGインパクトジャパンは、日本でもまだ数少ないインパクト投資(社会的課題の解決と経済的利益獲得の両立を目指す投資)を軸にした投資・アドバイザリー会社ですね。投資で世の中を変えていくということだと思いますが、そもそも世界銀行のようなパブリックセクターにいた小木曽さんが、自分で投資会社を立ち上げようと思ったのはどうしてですか。

小木曽麻里さん(以下、小木曽) 世界銀行で11年ほど働いた後、2017年に笹川平和財団の運用資産で東南アジアの女性起業家を支援する「アジア女性インパクト基金」をつくらせてもらいました。意義のあることでしたが、物足りなさもありました。

 財団の限られた資金の中だけでなく、もっとメインストリームの金融機関に振り向いてもらわないと、なかなか世の中は変わらない。当時はまだ「SDGsなんて遠い世界のこと」と思っている人が9割以上でした。このままソーシャルセクターにいても、同じところをグルグル回っているだけのような気がして。一度、事業会社側に出てみようと思い、19年にファーストリテイリングでダイバーシティを推進する仕事に就きました。この体験は起業する上でもとても勉強になりました。

「世界銀行ではカンボジアやインドネシアの奥地に行き、浄水装置などをつくる支援をしていました」と話すSDGインパクトジャパン、代表取締役の小木曽麻里さん
「世界銀行ではカンボジアやインドネシアの奥地に行き、浄水装置などをつくる支援をしていました」と話すSDGインパクトジャパン、代表取締役の小木曽麻里さん

―― どういう点が役に立ったんですか?

小木曽 ファーストリテイリングで仕事をしてみて、初めて事業者側の視点が分かりました。消費者、投資家、企業がそれぞれ何をすべきか、そのバランスとさじ加減が内側から見えたんです。

 ちょうどその頃、コロナ禍で世の中の流れが一気に変わり、日本でもSDGsやESG投資が盛り上がってきました。今ならビジネスとして自分にできることがあるのではないかと、以前からよく話をしていた投資家の谷家衛さんらに声をかけたところ「じゃあ、一緒にインパクトファンドを立ち上げましょう」と。その翌月にはファーストリテイリングを退職しました。

―― 長年、考えていたことが世の中の流れを受けて、急に形になったんですね。