小木曽 無理やり女性を昇進させることだけを考えるとうまくいかない。インクルージョン(包括)なしにジェンダーギャップ解消だけを進めようとすると、一時的に収益が下がるというデータもあります。

 投資家として圧力をかけるというよりは、まず話し合って、なぜD&Iが必要かという理由を腹落ちしてもらうことが大事だと思っています。D&Iを進めると、従業員のエンゲージメントも上がり、収益にも影響が出ますよ、と説明していきます。企業に男女のペイギャップ(賃金格差)の実態を数字で出してもらうことも有効です。多くの会社が正確な数字を持っていない。だから、問題が見えていません。

時給平均で分かる男女の賃金格差の実態

―― 男女の賃金格差を正確に知るにはどうすればいいのですか?

小木曽 日本では職級ごとの男女の賃金格差はそれほど大きくないといわれます。男女のペイギャップの主な原因は、上位層に女性が少ないこと。そして、賃金が低い層に女性が多いことです。企業には全社員の賃金を時給換算にして男女差を出してもらう。この数字を出すことがすごく大事で、時給でみるとこんなに違うのかと驚きます。

 日本では比較的女性活躍が進んでいると見られる会社でも、時給平均にすると女性は男性の5、6割というケースも少なくありません。また、収入の低い業種に女性が多い傾向もあるので、社会全体で見たらもっと差があると思います。

 ジェンダーギャップを解消して女性が働きやすい環境を整えないと、少子化も止まりません。少子化で「日本が消滅する」としたイーロン・マスク氏に反論するよりも、そのくらいの危機感を持って対応しないといけないことだと思っています。

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世界銀行で働き、初めて自分のバイアスから自由になれた

取材・文/竹下順子(日経xwoman ARIA)写真/鈴木愛子

小木曽麻里
こぎそ・まり/SDGインパクトジャパン 代表取締役。東京大学経済学部卒業後、日本長期信用銀行に7年間勤務。退職後、タフツ大学で修士課程修了。世界銀行資本市場部、世界銀行グループ多国間投資保証機関(MIGA)東京代表を務める。2017年には笹川平和財団で国内初のジェンダーレンズ投資ファンドを設立。ダルバーグを経て19年、ファーストリテイリンググループのダイバーシティ担当部長および人権委員会事務局長を歴任。21年から現職。国際協力機構海外投融資委員会有識者委員、WE EMPOWER japanのアドバイザーを務める