加藤 起業にもいろいろとあります。自分が選んだ起業スタイルは、市場をこれから開拓し、短期間に急成長する必要があるスタートアップ。例えるなら、赤ちゃんに大リーグ養成ギプスをはめて3年で20歳にさせようとするようなもの。だからこそ、スタートアップには、豊富な資金や優秀な人材といった経営資源の集中投下が不可欠なのです。

 資金も人材も、起業に必要なものは社外にそろっていると分かりましたが、結局、起業を決断するまでに1年間以上は自問自答を続けました。起業に対する覚悟のほどを、自分自身で見極めるためにはある程度の時間が必要だったのです。楽な道ではないことは分かっていましたから。

Q 「起業すると失う」と考えたものは?

―― 人材や外部調達など、起業しないと得られないものがある一方で、起業すると失うものもあり、両者をてんびんに掛けたのでは、と想像します。起業で失うと考えたものは何ですか?

加藤 起業を検討している時には、「会社の看板」を失うと思いました。それにより、社会的な信頼度が低下したり、ビジネスの相手に与える最初の印象が悪くなったりするのでは、と心配したのです。でも、実際に起業してみて分かったのは、私の場合は「恐れることは何もなかった」ということです。

Q起業を検討した時に、「起業すると失う」と考えたものは?
Q起業を検討した時に、「起業すると失う」と考えたものは?
「起業を考えた時は、リクルートという大企業の看板で仕事ができていると思っていたので、それがなくなることへの怖れがありました」

加藤 実際に初めてWAmazingの名刺で名刺交換する時には、怖くて、恥ずかしくて、足が震えました。リクルートという大企業の看板で仕事ができていると思っていたんですね。しかし、創業後2週間ほどでお会いした成田国際空港の役員と担当者の方は、熱心に私の話を聞いてくれました。当時、資本金300万円、オフィスはマンションの1室、スタッフは共同創業者のみで社員はゼロ、あるのは企画書と構想だけ、という状況にもかかわらず、です。

 この経験は、「仕事は大企業の看板でするのではない。私たちは、自分たちのビジョンや創りたい世界を語って賛同者を集める旅に、既に出発したのだ」と改めて気付かせてくれました。その時にお目にかかった方々へのご恩は、一生忘れないと思います。