安定も、確かな地位もあるのに新しい一歩を踏み出したARIA世代の起業家にお話を聞くこの連載。外資系企業を退職し、同僚女性と起業した井出有希さん。忙しい中、子どもの食事作りの悩みを共有するうち、専門家が自宅まで食事作りに来てくれる「シェアダイン」のサービスを思い付きました。「今しかなかった」と決断した起業ストーリーを聞きました。

育休から復帰すると家庭の食が犠牲になった

編集部(以下略) 料理のプロが自宅に来て、家族の食事を作り置きしてくれるサービス「シェアダイン」。ボストン・コンサルティング・グループに勤めながら、起業を考えたきっかけはどういうことでしたか?

井出有希さん(以下、井出) きっかけは自分の悩みです。外資系企業の社員としてキャリアを積んできたのですが、育休から復職したとき、家の中の食卓が犠牲になるんだなと感じていました。食事を楽しむというより、「とにかく何か食べさせなくちゃ」と義務のような気持ちで。長男の偏食が進んで、栄養の偏りも気になった。みんなどうしてるんだろう、と考え始めたのがきっかけです。

 ランチタイムに同僚のママ友に話すと、みんな同じようなことで悩んでいた。一緒に起業した飯田陽狩もその一人です。話しているうちに、これを解決する事業をやってみたら面白いんじゃない、と考えるようになりました。

食の専門家が一般家庭を訪れ、要望や悩みを聞きながら作り置きなどで料理を提供する「シェアダイン」を元同僚と共同創業した井出有希さん
食の専門家が一般家庭を訪れ、要望や悩みを聞きながら作り置きなどで料理を提供する「シェアダイン」を元同僚と共同創業した井出有希さん

「失敗したほうがいい」 夫の言葉が背中を押した

―― 起業のアイデアを思いついたとしても、会社を辞めて新しいアクションを起こすのはパワーが必要ですよね。そこで背中を押したものは何でしたか?

井出 一つは「今、やらなかったら、一生やらないだろう」と思ったことですね。そして同じ思いを共有して、一緒に起業して支え合える同僚がいたことも大きい。一人でやるより心強いし、アイデアも豊富になる。夫にも「事業を始めようと思うけど、失敗したらどうしよう」と相談したら、「米国では失敗した人ほど信用ができて、お金が貸してもらえるようになるよ」と答えが返ってきた。

 もともと起業を考えていたわけではありませんでしたが、当時在籍していた会社は、辞めて起業する人が多かったし、前職の同僚や大学時代の友人などにも起業している人が多かった。だから起業が身近な選択肢という環境にはありました。