安定も、確かな地位もあるのに新しい一歩を踏み出したARIA世代の起業家にお話を聞くこの連載。ヤフー(現Zホールディングス)で50人の部下を抱える部長として働いていた禹(う)ナリさんは、40歳になった2018年、ITベンチャー「キュカ(QCCCA)」を起業しました。キュカが運営する、痴漢が発生した場所や被害状況がひと目で分かるウェブサイト「痴漢レーダー」は、サービス開始からわずか1カ月でユーザーが2万人を突破。2019年12月には5万3000人が利用するまでに急成長し、話題を呼んでいます。これまでにない画期的なサービスを生み出した彼女が起業した理由とは――。

(上)不審者を見える化する「痴漢レーダー」生んだ40歳の決断 ←今回はココ
(下)痴漢データは情報量がカギ。目指すはユーザー100万人

頻繁に痴漢が出没する場所がアプリで分かる

―― 痴漢をはじめ、ハラスメント被害を可視化できるサービスとは、どういうものですか。

禹ナリさん(以下、敬称略) 「痴漢レーダー」は、自分が痴漢の被害に遭ったり、被害を受けている現場を見かけたりしたときに、位置情報と共に、被害状況をアプリ上で簡単に登録できるサービスです。登録されたデータによって、痴漢が出没した場所や被害の状況が地図上に表示され、どの路線でどんな時間帯にどういった被害が多いのか、ひと目で分かります。痴漢だけでなく、つきまとい、ぶつかり、盗撮、露出にも対応していて、ユーザーの皆さんがとても詳細に報告してくれます。こうしたデータが蓄積されていくことで、データベースの価値が高まり、ユーザーに安全を提供できる仕組みです。

 アプリには、「被害に遭った」「被害を見た」の2種類のボタンがあります。実は、「被害を見た」ボタンは、「痴漢被害を見てもなかなか介入できない」「同じ男性として許せない」といった男性ユーザーの声から生まれたもので、6対4で男性ユーザーからの報告が多いんです。年齢別では、大学生や社会人など20~30代の男女がメインですが、中高生にも使ってもらえるように新機能を検討しています。

キュカを40歳で創業した禹ナリさん。大企業では実現が難しいサービスを提供するため、部長にまで上り詰めたヤフーを飛び出した
キュカを40歳で創業した禹ナリさん。大企業では実現が難しいサービスを提供するため、部長にまで上り詰めたヤフーを飛び出した