ワーク・ライフ・バランスが声高に叫ばれる現在、一方では仕事そのものを面白がり「遊ぶように働く」人たちも現れています。外資系企業のマーケティング責任者のキャリアから一転、「自分が学び直すための場を作る」ビジネスを立ち上げたCOAS代表の小日向素子さん。牧場で馬を相手にリーダーシップやチームビルドを学ぶユニークな研修を展開しています。「会社員としての自分に欠けていたもの」を学び直す場を作るまでにはさまざまな遍歴がありました。

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資生堂など企業が取り組む「馬と一緒のビジネス研修」

―― 牧場で乗馬を教えるのではなく、馬と一緒にリーダー研修やチームビルド研修をするという試みはまだ少ないと思いますが、資生堂の女性リーダーに対する研修は3年目に入ったそうですね。

小日向素子さん(以下、敬称略) 女性リーダー研修は10カ月にわたるプログラムで、その中で数日間、牧場に泊まり込みで研修をします。これまでに8回実施しました。今後は女性リーダーに限らず、より幅広い対象が受講する形を模索しています。

 リーダーシップ研修は他にも、自動車関連企業などで3年間実施してきました。今年の夏には、馬の研修が評判となりグローバル企業の経営幹部30人近くが受講されました。

 現在は札幌にある牧場と、ここ埼玉の牧場が研修の拠点です。

「学び直しの場を追い求めていった結果、牧場にたどり着きました」
「学び直しの場を追い求めていった結果、牧場にたどり着きました」
里山の風景の中にある埼玉県滑川町の牧場。埼玉と札幌、2カ所の牧場で研修を実施
里山の風景の中にある埼玉県滑川町の牧場。埼玉と札幌、2カ所の牧場で研修を実施

―― 牧場で馬と一緒に行う研修は、具体的にどんなことをするのですか。

小日向 いろいろな内容があるのですが、例えば、馬に触らずに馬を思い通りに動かしたり、馬との関係性を作って一緒に課題をこなしたりします。

 馬は、相手が誰であっても的確に関係性を築き、指示を出せばそれに従う動物です。相手の振る舞いを投影して反応するミラーリングという性質もあります。馬を相手にすると、自分のリーダーシップやコミュニケーションの実態が明らかになり、自分自身の問題の発見や行動変容につながります。

 人間相手のロールプレイング研修などでは「嘘臭い」と感じてしまう人も、言葉が通じない体の大きな馬と一緒の研修では夢中になりますし、強烈に記憶が残ります。複数人で研修すれば、リーダーシップのスタイルは人それぞれに違うことが実感できます。実際に、職場でのコミュニケーションの仕方がすごく変わった、という声をたくさんお聞きしています。

 実はこうした牧場での研修プログラムは、欧米では既に歴史があり、多くの経営者やビジネスパーソンが学んでいます。私も米国や欧州諸国の牧場で行われているプログラムを実際に受けて学びました。馬に乗らずに、地面の上で馬とやり取りすることで人が癒され、学び、成長するメソッドを提唱している団体の認定資格も取りました。日本企業の状況に合う体系的なカリキュラムを作るまでに数年かかりました。