ワーク・ライフ・バランスが求められる中で、仕事そのものを面白がって「遊ぶように働くひと」たちが現れています。スープストックトーキョーの数多くのメニュー開発に携わってきた桑折敦子さんもその一人。学生時代に初めて行った海外旅行で食べ歩きの楽しさに目覚めた桑折さんは、世界各国への旅で感じたおいしさを「みんなに伝えて共有したい」という思いが仕事の原動力になっていると言います。

(上)スープストックの味は大好きな旅から生まれた ←今回はココ
(下)スープは面白い、でもスープ以外にも挑みたい

メニュー開発のインスピレーションは旅

―― 女性一人でも入りやすくて人気のスープ専門店、スープストックトーキョー。食べられるメニューが毎週変わる「新鮮さ」でリピーターをつかんでいます。数多くのメニューを開発したのが桑折さんで、生み出したレシピは200種以上だとか。記念すべき1つ目のメニューは何だったのでしょうか?

桑折敦子さん(以下、敬称略) 2004年に(スープストックトーキョーを展開するスマイルズに)入社してすぐ、夏のメニューとして開発した「ゴーヤと豚肉のスープ、ライム添え」でした。そもそも温かいスープは夏に販売が伸びないのですが、その年の夏は特に猛暑が予想されて、新たな「売れるメニュー」の開発が急務でした。その時に考えたのが沖縄とベトナムをイメージしたこのスープです。ゴーヤーとライムのビタミンCと豚肉のビタミンB1で疲れを吹き飛ばしてもらいたい、と考えました。当時はまだゴーヤーを使ったスープが珍しく、酸味と苦味がきいた味が好評で3日で欠品になる売れ行きでした。「それはそれで困るんだよね」と言われましたね(笑)。

スープストックトーキョーの数多くのメニューを開発してきた桑折敦子さん。入社してすぐに初めて開発した「ゴーヤと豚肉のスープ、ライム添え」は、3日で欠品になる売れ行きだった
スープストックトーキョーの数多くのメニューを開発してきた桑折敦子さん。入社してすぐに初めて開発した「ゴーヤと豚肉のスープ、ライム添え」は、3日で欠品になる売れ行きだった

―― 大成功したスープは沖縄とベトナムをイメージしたんですね。実際に旅先で覚えた味がヒントに?

桑折 そうですね。私の場合、メニューを作るという仕事のために旅をするわけではなくて、個人的に行きたいところへ旅をして、旅先でいろいろ食べてヒントをもらい、それが仕事に役立っている感じです。

旅をするために仕事を辞めたことも

桑折 もともと旅が好きなんです。そのルーツは、学生時代に行った2週間のスイスへのトレッキング旅行。自由参加の体育の授業だったのですが、「社会に出たらそうそう長期間の旅行はできないよ」と先生から言われ、思い切って参加しました。

 初めての海外旅行では、「世の中には知らない食べ物がたくさんある」こと、「食は風土と密接に関わっている」ことに興奮しました。実は、その旅ではおいしいものを食べた思い出よりも、あまりおいしくなかった思い出の方が多いのですが、それすらも一緒に行った友人たちと共有できて楽しかった。

 それからは、機会を作っては台湾、韓国、ベトナム、シンガポール、ラオス、インド、ネパール、スリランカ、スペイン、トルコ、イタリア、フランス、ベルギーなど、東南アジアやヨーロッパを中心にさまざまな国を旅しました。スープストックトーキョーに入社する前は飲食店や医療機関に勤めていたこともあるのですが、旅をするために仕事を辞めたこともありました。