カリフラワーのスープは開発に5年

―― 1つのメニューを開発するのに、どれぐらいの時間をかけるのでしょうか。

桑折 2カ月程度の短いタイムスパンのものもあれば、2年かけるもの、5年かけるものなどと、いくつかを並行しています。最初に開発した「ゴーヤと豚肉のスープ」は、2カ月程度で一気に完成させました。一方、食材を農家さんに植えてもらうところから始めるようなものもあり、そういう場合は5年コースですね。毎年、夏の1週間限定で販売している「カリフラワーの冷たいポタージュ」は、販売するまでに5年かかりました。

2019年7月に数量限定で提供された「カリフラワーの冷たいポタージュ」。前年の秋に種をまき、2月に収穫したてのカリフラワーをすぐにスープにして冷凍保存。暑い夏に冷製スープとして提供する
2019年7月に数量限定で提供された「カリフラワーの冷たいポタージュ」。前年の秋に種をまき、2月に収穫したてのカリフラワーをすぐにスープにして冷凍保存。暑い夏に冷製スープとして提供する

桑折 このスープは、フレッシュのカリフラワーを、ホタテのブイヨンと合わせて作った冷製スープです。カリフラワーのおいしさを引き出すには、冷凍ではない生のカリフラワーが必須。そのため、良質の素材を工場に近い畑で栽培してもらうところから始めました。2月に収穫した採れたてのカリフラワーをすぐにスープにし、おいしいまま冷凍して夏に提供するのです。

 数量限定なのでお店で提供できるのはほんの数日だけですが、そういった商品を心待ちにしているお客様もいらっしゃいます。スープストックトーキョーでは、確保できる食材の量に合わせて販売期間を決めます。たくさん作れるレシピしか作らないなら、誰もが同じものを作ることになってしまいます。面倒だったり、準備が大変だったりで、みんながやりたがらない仕事をやることに価値があると思っています。

企画でボツになったカレー、2年後に再提出して「合格」

―― そうした「面倒な」商品の場合、社内で企画を通すのが難しくありませんか?

桑折 タイミングを計るのが大切ですね。ゴリ押しはせず、静かに機会が訪れるのを待ちます(笑)。今や看板商品にもなっている「カシューナッツのホッダ(スリランカ風ココナッツカレー)」はまさにそんな商品です。これは、カシューナッツとカボチャをココナツミルクで煮込んだスリランカ風のカレーで、2013年に初めてスリランカで食べて魅了されました。

 帰国後すぐに試作して試食会に出したのですが、コスト面で折り合わず、営業からは難色を示されました。こうした「見慣れない、面倒な」商品を売るには、まずは社内の人をその気にさせ、販促物や企画と連動しなければうまくいきません。強引にメニュー化して「やっぱり売れなかったダメな商品」とそのメニューをお蔵入りにしてしまうぐらいならここはいったん引こうと、ボツになったカレーのレシピはそっと保存しました。

 そして2年後! チャンスが巡ってきました。夏の定番、カレーの新メニューを求められたのです。すかさず、温め続けていたあのカレーを「再提出」したところ、以前却下されたものとは気づかれず、満場一致の合格でメニューに加わることに。タイミングって大切だな、と思いました(笑)。

 また、「8種の野菜のラタトゥイユカレー」も企画を通す際にひねりが必要でした。その当時のスープストックトーキョーでは、スープ専門店であることにこだわっていて「カレー感を出したくない」という意向でした。でも、たくさんの野菜をご飯と一緒に食べられる、良いメニューだと自負していたので、「これはカレーではなく、カレー味のラタトゥイユ(スープ)です」と説明して乗り切りました。このレシピも今では定番になっています。

※次回の(下)の記事では、会社員を辞めてフリー契約になった桑折さんの仕事との向き合い方について伺います。

取材・文/武田京子 写真/村田わかな 構成/大屋奈緒子(日経ARIA編集部)