サン・セバスチャンのアパートで料理三昧。帰国後に自宅で料理会

―― 旅先ではどんなふうに過ごしているのですか?

桑折 旅の目的は、ズバリ食べること。チケットも宿もすべて自分で手配する自由旅行で、いわゆる観光地には一切行かず、ひたすら食べます。そんな私の旅のスタイルに興味を持った友人や知人たちから「一緒に行きたい」と言われることが増え、最近は何人かと一緒に、現地集合現地解散のルールで旅をしています。

 少し前までは一人旅がいいと思っていましたが、今はSNSでつながった「おいしいものを食べたい」「旅行が好き」という共通項のある人たちとの旅の楽しさに目覚めました。人数が多いと、たくさんの種類を食べられるところもいいんですよね。先日は、スペインのサン・セバスチャンに7人が集合。アパートを借りて12日間滞在し、レストランや市場などを巡りました。宿泊先をホテルにしなかったのは、地元の食材を自由に調理して食べたかったから。特においしかった黒いトマトはキッチンで煮詰めてソースにして、冷凍で持ち帰りました。外食だけで過ごしていてはできない経験を旅先ですると、世界が広がるように感じます。

「少し前までは一人旅がいいと思っていましたが、今はSNSでつながった『おいしいものを食べたい』『旅行が好き』という共通項のある人たちとの旅の楽しさに目覚めました」
「少し前までは一人旅がいいと思っていましたが、今はSNSでつながった『おいしいものを食べたい』『旅行が好き』という共通項のある人たちとの旅の楽しさに目覚めました」

桑折 旅から帰った後にも楽しみが。家族や友人を招いて食事会を開催します。現地で買った食材を使いながら、おいしいと思った料理を再現して感動を伝えます。食べてくれた友人たちの反応を見ることは、調査の数字とは違う「実感値としてのマーケティング」として、メニュー開発の参考になります。

旅で出合った「おいしい」の感動を共有したい

―― 海外のメニューをそのまま日本に持ってきても、日本の風土と合わなかったり、日本人の味覚に合わなかったりしませんか? メニュー開発の際の工夫があれば教えてください。

桑折 お店で展開する場合には、まずはそのメニューの背景にある物語を説明する工夫をしています。そのためにリーフレットを作ったり、イタリアフェアやフランスフェアのように文化を発信する企画として紹介したり。

 例えば、イタリアで食べた豆のスープ。地味だけれど、しみじみ感動するほどおいしかったのです。この味を何とか伝えたかったけれど、単品では地味過ぎて絶対企画が通らない(笑)。そこで、イタリアフェアに紛れ込ませて豆のスープを登場させました。食べてもらえば、そのおいしさを分かってもらえると思ったので。スープストックトーキョーのコアなファンの方には、こういったメニューを待っている方も多いのです。

 また、日本人の口に合うように食材を置き換えることもあります。イタリアではルッコラが使われているところを春菊にするとか。それから、大切にしているのは「その国の気候と日本の季節を合わせること」ですね。東南アジアの酸っぱ辛い味のスープは、日本では夏に提供するようにしています。