ワーク・ライフ・バランスが声高に叫ばれる現在、一方では仕事そのものを面白がって「遊ぶように働く」人たちも現れています。シニア女性4人の手編みの技術を生かして、デザイン性の高いニットバッグの製造・販売に乗り出した楠佳英さんは、誕生したばかりの無名ブランドながら、1万~3万円台の比較的高価な価格帯で最初から勝負に出ます。その狙いとは? また、ECショップを3カ月で軌道に乗せた方法とは?
(1)大人気ニットバッグの製作集団はシニア&主婦
(2)ファッション誌に載るのにふさわしい値段で勝負 ←今回はココ
(3)ECからリアル店舗を展開 意外なメリットも
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⇒楠佳英 大人気ニットバッグの製作集団はシニア&主婦
販売開始時にインスタのフォロワー1500人
―― 起業のために自己資金50万円を用意した楠さんは、義妹の協力を得てECサイトを作り、義母やシニア女性には3カ月分の在庫に相当するニットのバッグを編んでもらい、2014年6月から販売を開始します。でも、ECサイトを作ったからといって、自然にお客さんが来てくれるわけではないですよね。何か集客のために工夫しましたか?
楠佳英さん(以下、敬称略) まずは私たちのファンを作ろうと考えました。ECサイトで販売する前に、義母に試作品を作ってもらった段階でインスタグラム(@beyondthereef_official)で情報を発信しました。試作品の写真をポストしたり、できあがったばかりのブランドタグを一足先に見せたり、この日に売り始めます、と予告したり。期待感をあおるような、メーキングビデオみたいな感じですね。
楠 予算もないし、インスタグラムで予告するくらいしかできることがなくて。それでも、ECサイトができたときには1500人くらいのフォロワーがいました。だからといって、すぐに売れるほど簡単ではないですよね。
ほかには、雑誌の中でモデルに使ってもらうなど、本業である編集者で籍を置いているファッション誌編集部の力も借りました。それができるのは自分のアドバンテージだと思っていましたので、遠慮なく。背に腹は代えられません。売らないと。
最初は「ストーリー」を封印
楠 雑誌に取り上げてもらう切り口は、「絶対に使える! 真夏の○○」のような、バッグそのものの魅力にフォーカスした内容でした。「夫を失って沈んでいる義母に元気を出してもらおうと立ち上げたブランドで……」というストーリーは、最初は前面に出しませんでしたね。
ファッション雑誌では、まずは「わあ、かわいい! こんなの欲しい」って思ってもらえないとダメなんです。善意ばかりが前面に出過ぎると、福祉になり、適正な利益を出すことがいつまでも難しくなってしまいます。
―― 「適正な利益」に関連して伺いたいのですが、Beyond the reef(ビヨンドザリーフ)ブランドのバッグは1万円台から3万円台と、低価格を武器にする設定では全くありませんよね。
楠 はい。私たちの製品に値付けするときは、「ファッション誌に載っていてしかるべき値段」を意識しました。