ワーク・ライフ・バランスが叫ばれる現在、一方では仕事そのものを面白がって「遊ぶように働く」人たちも現れています。ファッション誌の編集者として多忙な毎日を送っていた楠佳英さんは、ファストファッションの台頭で服が大量消費されることに違和感を覚えていたときに義母の手編みの技術と出合い、そのスローな価値観に心を奪われます。50万円の自己資金を元手に、デザイン性を高めて適正な利益の出る価格をつけたニットバッグをシニアの女性たちと作り、ネット販売に挑みます。

ファッション誌も注目するニットバッグ

―― 女性ファッション誌でたびたび紹介されて、月1回の予約受注の日にはすぐに枠が売り切れてしまうほど大人気のニットバッグを製造、販売している会社を創業したのが楠佳英さんです。製品そのもののデザイン性のみならず、なぜこの製品が誕生したのか、誰が作っているのかなど、背景にあるストーリーも注目されていますね。

楠佳英さん(以下、敬称略) おかげさまで、代表である私だけでなく、作り手さんたちが取材されてメディアで紹介されることも多いんです。私たちの製品はウールや麻などの素材を手編みして作ったニットのバッグなのですが、作り手さんは手編みの上手なおばあちゃんたちシニア世代や、子育て世代の主婦。家事や育児を優先しながら、空いている時間に社会とつながりたい、と考えている人たちです。

Beyond the reef(ビヨンドザリーフ)ブランドの看板商品である、ニットクラッチバッグのLサイズ、1万7800円(税抜)。こちらはウール100%だが、夏はコットン100%のものも人気
ビヨンドザリーフ代表取締役社長の楠佳英さんは、20年間ファッション誌の編集者だった。すべての商品のデザインを自分で決める。「欲しいと思う商品だけを作っています」
夏に特に人気なのが、1本の麻紐で編み上げるバッグ「ヘンプ」、3万2800円(税抜)。小ぶりの「ミニヘンプ」は2万7800円(税抜)。編み目が細かく、納品までに1カ月近くかかる

―― 大変失礼ですが、シニアや主婦の手作りのニットと聞くと、温かみにはあふれているけれどデザイン性はもう一つ、というイメージを持ちます。でも、こちらの製品はセンスが良く、百貨店からの引き合いが多いというのも納得です。

 バッグはすべて私がデザインしたオリジナルで、それを(編み手を指導する)インストラクターたちが形にしていきます。編み物が趣味の人は「編む」という作業が好きなわけで、自分が編みたいものを好きに編むんですよね。次々と出来上がる作品を家族や友人にプレゼントしたりするのですが、その作品はファッション的にはいま一つで、もらったほうは使いづらい……っていうこと、ありませんか?

 私自身がそうでした。義母がレース編みで作ったものをくれるのですが、時間と手間をかけた本当に素晴らしい作品ではありますが、デザインは昭和の家庭でピアノやファクスにかかっていたような感じ。今のインテリアとは合わないので、使うのに困るんです。

 私はファッションの編集者だったので、それなりにトレンドには明るいという自負がありました。そこで、私自身が欲しいもの、今の女性が欲しがるデザインで何か作ってもらえないかな、と考えました。