ワークライフバランスが声高に叫ばれる現在、一方では仕事そのものを面白がって「遊ぶように働く」人たちも現れています。38歳のときに国連の正規職員の座をなげうってノンフィクションライターへと転身した川内有緒さんは、取りたいと願った文学賞を受賞しました。「こんなすごい人がいるのを伝えたい」という熱い思いで、現代を生きる人を描く作品をノンフィクションという形式にこだわって発表しています。
(1)1000倍の難関・国連職員を辞しライターに
(2)文学賞も全文公開も「読んでもらうため」 ←今回はココ
(3)ノンフィクション作家は「肩書を模索中」
この記事の前に読みたい
⇒川内有緒 1000倍の難関・国連職員を辞しライターに
取りたいと願った賞、受賞を実感したのはtwitterで
―― 国連を辞めてノンフィクションライターへと転身した川内有緒さん(前回記事参照)は、デビュー作『パリでメシを食う。』から数えて5冊目となる本を、2018年11月末に出版しました。第16回開高健ノンフィクション賞の受賞作である『空をゆく巨人』ですが、2018年7月に受賞を知ったときは沖縄の久高島にいらしたんですね。
川内有緒さん(以下、敬称略) そうなんです。私は初めての応募だったので知らなかったのですが、普通は賞の審査会場の近くで結果を待ち、受賞したら会場に駆けつけることが多いのだそうです。でも、私はここのところ毎年、6月の終わりから7月の初旬にかけては早めの夏休みとして家族で沖縄に行って過ごすことにしていました。発表の日が7月7日と聞いたので、せっかくだからいい感じの所で迎えたいなっていうことで、前日に沖縄本島から久高島に入りました。
―― 久高島は、神様とのつながりが深いとされて、数ある沖縄の島の中でも特別な島ですよね。
川内 ええ。本島の南東の端からフェリーで30分ぐらいの小さな島で、沖縄有数の聖地です。それまでにも行ったことがあり、とてもいい印象を持っていたので、どんな結果であれ、大切な知らせはここで受けたいなと思いました。
文学賞は大きく2つに分類できるのですが、すでに刊行された本から選ばれて受賞するものと、未発表作品を応募するものとがあります。私が別の作品(『バウルを探して』)で受賞した新田次郎文学賞は前者でした。それに対して、今回の開高健ノンフィクション賞は未発表作品を応募する賞。取りたいと願って取りにいった賞でした。
「受賞したら(午後)5時までには連絡があります」と聞いていたので、電話が鳴らなかったときには、「やっぱり駄目だったんだな、すごく頑張ったのに残念だな」と落ち込みました。
諦めかけていたら、5時10分すぎに電話が鳴って。電話してくれた編集者は「ナチュラルロー」って他の作家から言われているくらい淡々とした人なのですが(笑)、その時もいつもと変わらないトーンで「あ、受賞できました。おめでとうございます」って連絡をくれました。
電話を切っても受賞が現実とは思えず、「本当に受賞できたのかな? 空耳だったんじゃない?」と疑っていたのですが、選考委員の一人である茂木健一郎さんが個人のtwitterアカウントで、私の受賞をツイートしてくださったのを見て、初めて受賞を実感しました。
受賞作を出版前にnote上で全文を公開
―― ぜひこの賞を取りたかった理由を教えてください。
川内 それまで出してきた4冊の本が、すぐに店頭から消えてしまったことが悲しかったんです。作家として身を立てていくと決めた以上は、新しい目標にチャレンジしてみよう、そうすればより多くの人に作品を届けられるかもしれない、と考えました。出版後はトークショーや対談など、できる限り積極的に引き受けました。
―― 作品は受賞後に1冊の本として出版されるわけですが、出版前にWeb上で全文公開する、という川内さんの試みにも驚きました。
川内 それも同じく、多くの人に届けたいという思いからですね。