ワーク・ライフ・バランスが声高に叫ばれる一方、仕事そのものを面白がり「遊ぶように働く」人たちもいます。3回シリーズの最終回となる今回は「エキナカ」の立役者として知られる鎌田由美子さんが、会社員を卒業して50代で起業、留学した理由について聞きます。

(上)エキナカの立役者「会社員を卒業し、ものづくりに夢中」
(中)「断られて当然」エキナカ発足時の苦労が独立後に生きた
(下)鎌田由美子 社会に必要とされるため50代で起業、留学 ←今回はココ

いつまでも「社会から必要とされる存在」でありたい

―― 大企業を辞めて独立する道を考え始めたのはいつ頃からですか?

鎌田由美子さん(以下、敬称略) JR東日本で定年まで働くと思いながらも、同時にサラリーマンという生き方をどのタイミングで卒業すべきか? ということはずっと考えていました。地域活性化という仕事に運命を感じたのは42歳の頃。「個人としてずっと夢中になれるテーマ」を見つけられたと迷いがなくなりうれしくなったことを覚えています。

 JR東日本時代のエキナカの立ち上げのようなデベロッパーとしての仕事も好きだったのですが、これは大きな組織に所属していなければできない仕事だな、と感じていました。いずれは卒業するもので、生涯できるものではないなって。

 「おそらくこれから先、60歳で定年退職した後も、70代くらいまでは体も動くだろうし、週に数日だけでも社会とつながる仕事ができたらいいな」とぼんやりと考えていたんです。経済的な充実を求めるというより、「社会から必要とされる存在」でありたいという気持ちですね。

 でも、その価値が何なのかを自分の中に見いだせなくて苦しんでいたのが30代の頃。「ecute(エキュート)」の成果が注目されて、世間的には一番華やかに見えていた時期に、実は一番悩んでいたかもしれません。

ONE・GLOCAL代表取締役 鎌田由美子さん
ONE・GLOCAL代表取締役 鎌田由美子さん
1989年、JR東日本入社。2001年エキナカ事業を手がけ、「ecute」を運営するJR東日本ステーションリテイリング代表取締役社長に。その後、本社事業創造本部で青森「A-FACTORY」や地産品ショップ「のもの」など地産品の販路拡大や農産品の加工に取り組む。15年カルビー上級執行役員。19年ONE・GLOCALをスタート。20年4月までロンドンのRCA(Royal College of Art)に留学

「目の前の仕事の積み重ね」こそ独立の準備

―― 日経WOMAN主催の「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」に選出された時期に、実は将来のキャリアに不安を感じていたというのは意外ですね。「地域活性化」というテーマに出合えた後は、独立のための準備をしていたのでしょうか?

鎌田 いえ、準備というような準備は一度もしたことないんです。ただ、その都度の判断をしてきただけで。独立に向けてできる準備があるとすれば、たった一つ。「目の前の仕事の積み重ね」だと思うんです。

 もちろん、いざ会社をつくろうとなったときに事務的な手続きはいろいろと必要にはなりますが、それはそのときになって始めるので十分。組織にいながらできる準備は、今しかできない仕事に没頭することだと思います。そこで得られた経験や人との関係性が、すべて将来につながるものだなと今感じています。

 だから、ARIA世代の皆さんから「起業準備としてやるべきことは?」と聞かれたら、「仕事をやりきって蓄積してください」と答えます。また、会社というチームのつくり方を柔軟に考えられる時代になったことは起業にとって追い風ですね。私の会社も5人のメンバー全員が副業での参加なんですよ。

―― カルビーを辞めた後の2019年にロンドンへ留学をした動機は?