ワーク・ライフ・バランスが声高に叫ばれる一方、仕事そのものを面白がり「遊ぶように働く」人たちもいます。「エキナカ」の立役者として知られる鎌田由美子さんは、「エキナカの成果が注目されていた30代の頃が、一番悩んでいたかもしれません」と振り返ります。今は、会社員を卒業し、「一生の仕事にしたい」と考えてきた地域活性化を軸とした新たなものづくりに挑戦中。今回は、作り手とどのような思いで向き合っているかについて聞きました。

(上)エキナカの立役者「会社員を卒業し、ものづくりに夢中」
(中)「断られて当然」エキナカ発足時の苦労が独立後に生きた ←今回はココ
(下)鎌田由美子 社会に必要とされるため50代で起業、留学

値段ではなく、本物の思いで生産者は動く

―― 前回、創業9年のベンチャー企業「ファクトリエ」とタッグを組み、リンゴジュースを発売するに至った経緯をお聞きしました。共に青森のリンゴ農家を訪問して回ったファクトリエの新規事業責任者・山岡真由子さんの証言によると、各地の農家さんからは「鎌田さんとなら一緒にやるよ」という反応が多かったそう。誰よりも率先して行動するリーダーであるとも聞いています。新しい挑戦に農家の方々を巻き込む上で、ご自身のどんな姿勢や行動がプラスに働いたと思いますか?

鎌田 「思いの強さ」ではないでしょうか。私は要領よくできるタイプではなくて、農家さんの下に何度も足を運んだりと、愚直なことしかできないんです(笑)。

 今回、つくづく感じたのは、こだわりを持って作っている農家さんは「値段」だけでは取引を決めてくれないこと。やっぱり思いに共感してくれないとタッグを組んでくれない。こちらの思いが本物であることが伝わらないと、交渉までたどり着けないんです。

ONE・GLOCAL代表取締役 鎌田由美子さん
ONE・GLOCAL代表取締役 鎌田由美子さん
1989年、JR東日本入社。2001年エキナカ事業を手がけ、「ecute」を運営するJR東日本ステーションリテイリング代表取締役社長に。その後、本社事業創造本部で青森「A-FACTORY」や地産品ショップ「のもの」など地産品の販路拡大や農産品の加工に取り組む。15年カルビー上級執行役員。19年ONE・GLOCALをスタート。20年4月までロンドンのRCA(Royal College of Art)に留学

鎌田 グラニースミスを仕入れさせてもらったリンゴ農家さんと知り合ったのは2020年の夏で、初めての会話はオンラインでした。波長が合うと感じたので、「いつならいいですか? 私、そちらに行きます」と言ったらすごくビックリされて「本当に来るの? すごい田舎だよ」「だって田舎にしかいいリンゴはないでしょう」みたいなやり取りがありました。