ワーク・ライフ・バランスが声高に叫ばれる一方、仕事そのものを面白がり「遊ぶように働く」人たちもいます。「エキナカ」の立役者として知られる鎌田由美子さんは、「エキナカの成果が注目されていた30代の頃が、一番悩んでいたかもしれません」と振り返ります。会社員を卒業し、留学を経て始めたこと、そして今の思いとは?

(上)エキナカの立役者「会社員を卒業し、ものづくりに夢中」 ←今回はココ
(中)「断られて当然」エキナカ発足時の苦労が独立後に生きた
(下)鎌田由美子 社会に必要とされるため50代で起業、留学

留学から帰国後「一生の仕事」を本格始動

―― 鎌田さんといえば、JR東日本のエキナカ事業「ecute(エキュート)」を成功に導き、以後、地方の特産品に光を当てて販路拡大する事業を立ち上げてきた女性として知られています。2019年には起業し、英国へ留学も。そして今、新しい事業にチャレンジを始めたそうですね。

鎌田由美子さん(以下、敬称略) はい、2020年12月、工場直結型のアパレルブランド「ファクトリエ」を運営するライフスタイルアクセント(山田敏夫代表)のフード事業を一緒に立ち上げることになりました。私が「一生の仕事にしたい」と考えてきた地域活性化を軸とした新たなものづくりに挑戦できることにワクワクしています。第1弾として発表したのは、リンゴジュース。希少品種の「御所川原」「グラニースミス」「もりのかがやき」を青森と福島から仕入れて、食事にも合うような酸味を生かしたジュースに仕上げました。

ONE・GLOCAL代表取締役 鎌田由美子さん
ONE・GLOCAL代表取締役 鎌田由美子さん
1989年、JR東日本入社。2001年エキナカ事業を手がけ、「ecute」を運営するJR東日本ステーションリテイリング代表取締役社長に。その後、本社事業創造本部で青森「A-FACTORY」や地産品ショップ「のもの」など地産品の販路拡大や農産品の加工に取り組む。15年カルビー上級執行役員。19年ONE・GLOCALをスタート。20年4月までロンドンのRCA(Royal College of Art)に留学

―― 試飲させていただくと、リンゴ本来の酸味をおいしく味わえるジュースですね。「リンゴジュースは甘いもの」という思い込みが覆されました。

鎌田 作り手である農家さんに言わせると、「リンゴは本来、酸味を味わう果物」なのだそうです。ですが、市場で人気なのは、大きくて見た目がきれいで甘味の強い「ふじ」種。酸っぱいリンゴの代表格といえば「紅玉」ですが、その生産量は30年前のおよそ6%にまで減っているそうです。紅玉の大きさはふじの半分程度。大量生産・大量消費の社会では効率が悪いという結果です。今回採用した「御所川原」は、たちねぷたで有名な五所川原市でしか生産されていない品種で、甘くなく酸味が強いという理由から人気がなく、ほとんど流通していませんでした。

 でも、私は思うんです。皆が皆、リンゴに同じ甘さを求める時代は終わりではないかって。「私にとってはこれがいい」と、消費のシーンにも多様性が求められる時代になってきていると感じています。

 問題は、どう売るかです。産直の販路を広げるという考え方もありますが、私自身のこれまでの経験から、生鮮品の販路拡大の可能性を広げるために「一次加工」が重要だと確信してきました。つまり、搾汁したり、冷凍したり、乾燥させたりといった一次加工をすることで、旬の時期の農作物を無駄なく商品化させ、流通させることができる。スーパーの果物売り場に並ばない品種であっても、加工して新たな付加価値を創り出すことで、世の中に届けることができる。地元の人があきらめた個性ある素材の価値を知ってもらいたいというのが、今回の私の役割です。

―― 青森の希少品種リンゴをジュースにする。この取り組みに至ったきっかけはなんだったのでしょうか。