作り手の「言い値」で仕入れる

鎌田 ファクトリエ流の値決めルール同様、今回のリンゴジュースを作るにあたっても仕入れはまず「作り手の言い値を聞く」という手法を取りました。「いくらで譲っていただけますか?」と聞いていくと農家さんの中には明らかに高値をふっかけてくる方もいて、「あ、そうなんですね。機会がありましたらぜひお願いします」と受け流して。その一方、おっしゃる価格が低くて、「もっと自信をもった価格でいいですよ」とこちらから上の価格を提示した農家さんもいて、私も勉強になりました。

 重要なのは、産地のサステナビリティにつながることです。そのうち、「この値段で買ってもらえるなら、作付けしようと考える農家はいっぱいいるはずなんだ」と言う農家さんや加工工場に出会えて、「ならば、その値段で仕入れて成り立つような商品設計をしなければ」と奮起しました。

 実際に取引を始めて驚いたのは、値段から期待した想定よりはるかに質のいいリンゴをよりすぐっていただいたことです。やっぱり農家さんの意識も変わってくるんですね。急きょ「樹上完熟」というコピーを追加しました。

第1弾「樹上完熟りんご100%の紅白ジュースセット」は500ml×2本のセットが2種類(「御所川原・グラニースミス」と「御所川原・もりのかがやき」で、それぞれ税別3200円)
第1弾「樹上完熟りんご100%の紅白ジュースセット」は500ml×2本のセットが2種類(「御所川原・グラニースミス」と「御所川原・もりのかがやき」で、それぞれ税別3200円)

「よそ者」が農家の方針を変える

―― 鎌田さんが日ごろからよくおっしゃる「“よそ者”が入り込む効果」ですね。

鎌田 一つ実績ができると、「御所川原を作ったら、この値段で買ってくれるらしいぞ」という評判がすぐに地域一帯に広まるんです。すると、これまで「希少品種は売れないから作っても意味がない。人気のふじだけを作ったほうがもうかる」と考えていた農家も方針を変えるようになるはずなんです。今はせっかく評判になっても、作っている農家が少ないから供給不足になるだけ。供給不足が3年続けば流通量にも変化がでてくると思います。困るのは一時期のブームなんです。農家さんはその様子を見ています。

 思わず誰かに語りたくなるようなものづくりを、食の分野で広げていきたい。第2弾の商品も準備が整い、周防大島(山口県)の「瀬戸内ジャムズガーデン」と組んで、昔ながらの大釜で作るジャムの販売をスタートしたところです。他にもトライしたいものづくりがたくさんあるので楽しみです。PBはロットもありますのでファクトリエフードと、私が代表を務めるONE・GLOCALで順次開発を進めていきます。

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「断られて当然」エキナカ発足時の苦労が独立後に生きた

取材・文/宮本恵理子 構成/市川礼子(日経ARIA編集部) 写真/洞澤佐智子