「うちのシードルが世界一」原点は、30代の仏旅行

鎌田 やはりJR東日本勤務時代に、青森県産リンゴを使ったシードルや地産品を販売するマルシェ併設工房「A-FACTORY」を立ち上げた経験が大きかったと思います。エキナカ事業が軌道に乗って本社に戻り、次なる命題が地域活性化。A-FACTORYを考えるきっかけになったのは「東北新幹線の青森開業に合わせて、青森の地域貢献になる事業を始めてほしい」という会社のミッションでした。2008年の終わり頃のことです。

 商業施設の開発に関しては実績をつくれていたものの、初めて青森駅に降り立った瞬間、「それはここでは求められていないな」と感じました。何をするのか数カ月悩み、ひらめいたのが「シードル」です。地元産のリンゴにひと手間加えて新たな地産品として開発しながら、観光名所になる施設を造ろうと考えたのです。

 発想の原点は、30代の頃に旅したフランスでの風景です。ノルマンディーからブルターニュにかけて続く「シードル街道」では、加工用のリンゴを作っている農家が集っていて、それぞれが自家製シードルやカルバドス(アップルブランデー)の工房を持っているんですね。そして、行く先々で「うちのシードルが世界一だ」って自慢大会が始まる(笑)。

「皆が皆、リンゴに同じ甘さを求める時代は終わりではないか。消費のシーンにも多様性が求められる時代になってきていると感じています」
「皆が皆、リンゴに同じ甘さを求める時代は終わりではないか。消費のシーンにも多様性が求められる時代になってきていると感じています」

鎌田 工房を見せていただくと、想像よりずっと小規模な設備なんです。「その設備はいくらくらいで作ったのですか?」と聞いたら、当時の円換算で数百万円。しかも、シードルの作り方も、シードルを蒸留してカルバドスを作る工程も至ってシンプル。「事業としては意外と手軽に始められるものなんだな」と感じたことが印象に残っていたのを、青森で思い出したんです。

 手塩にかけたリンゴが規格外や日焼け傷ありというだけで二束三文で売られたり、廃棄されたりする現状にもったいないと感じました。最初は農家さんも、売る予定のなかったリンゴを売ることを「めぐせぇ(みっともない)」と言って抵抗があったようなのですが、経営に携わった仲間の頑張りもあって2年で黒字化したと聞いた時はうれしかった。そしてシードルを作る工房が青森に増え、A-FACTORY自体も観光客だけでなく地元の方々によく利用していただける施設に育ってくれたのも感慨深いですね。