新しいアイデアが生まれない、チームメンバーのモチベーションが下がっている…。組織が抱えるさまざまな問題を解決する手法として、ファシリテーションが注目を集めています。人の内面や関係性に着目して創造的な対話を引き出し、現状を打破するファシリテーションスキルはどう磨けばいいのか。ファシリテーションの研究と共に、企業や自治体のプロジェクトなどで実践を行っているミミクリデザインCEOの安斎勇樹さんが解説します。

(1)「ファシリテーション」で組織の見えない問題をひもとく
(2)誰かにイラッとしたときは「問い」の感覚を養うチャンス ←今回はココ
(3)対話の難易度が上がるリモート会議 活性化の工夫とは

誰かにイラッとするのは「相手と自分の前提が違うから」

 家族や友人、同僚、上司に部下など、誰かの言動にイラッとすることって誰でもありますよね。「なんでこんなことを言うんだろう」「なんで気づいてくれないんだろう」「なんで分かってくれないんだろう」……。そんなふうに、相手の中に問題があると考えてどうにかしてもらおうと思っても、うまくいかないことがほとんどではないでしょうか。

 そんなときは「誰が悪いか」「誰が問題なのか」と考えずに、まず「この人と自分とでは何か前提がずれているな」とメタ認知(自分の考え方を客観的に見ること)をしてみましょう。さらに、「この人はどういう前提に立って、私が当然やるべきだと思っていることをスルーしたのかな」というように、相手の「足場」を想像してみます。人ではなく、「人と人との関係性」の中に問題を置く。この考え方を身に付けることが、対話を通して目に見えない組織の問題をひもといていくファシリテーションの第一歩です。

 こうした視点に立ってイラッとする要因を探っていくと、「相手に問題があるから」ではなく、「相手と自分では立っている前提が違うから」ということになります。立場の違い、価値観の違い、知識の違い。それぞれの足場がずれているからイラッとするのです。

ミミクリデザインCEOの安斎勇樹さん。「誰かの言動にイラッとするのは、『相手に問題があるから』ではなく、『相手と自分では立っている前提が違うから』と考えることができます」
ミミクリデザインCEOの安斎勇樹さん。「誰かの言動にイラッとするのは、『相手に問題があるから』ではなく、『相手と自分では立っている前提が違うから』と考えることができます」

 組織の問題の大半は、「お互いの足場が見えていないこと」が引き起こしています。一人ひとりの内面をきちんと表に出せるようにすることを目指すファシリテーターの仕事は、前提の違いに目を向けて、想像することから始まります。何を大事にして、どういう価値基準の下で、この人は目の前の事象をとらえているのか。「もしかして彼にとってこれはあまり大事なことじゃないかもしれないな」「こういう意味づけをしているから、ちょっと攻撃的だったのかな」……。そんなふうに想像して、「どうしたら共通の足場がつくれるか」を考えていきます。

 そこから先は実際にコミュニケーションを取っていくしかないわけですが、課題の解決につながる創造的な対話が生まれるかどうかは、ファシリテーターが投げかける「問い」、つまり「問いをどうデザインするか」にかかっています。