新しいアイデアが生まれない、チームメンバーのモチベーションが下がっている…。組織が抱えるさまざまな問題を解決する手法として、ファシリテーションが注目を集めています。人の内面や関係性に着目して創造的な対話を引き出し、現状を打破するファシリテーションスキルはどう磨けばいいのか。ファシリテーションの研究と共に、企業や自治体のプロジェクトなどで実践を行っているミミクリデザインCEOの安斎勇樹さんが解説します。

(1)「ファシリテーション」で組織の見えない問題をひもとく ←今回はココ
(2)誰かにイラッとしたときは「問い」の感覚を養うチャンス
(3)対話の難易度が上がるリモート会議 活性化の工夫とは

コロナ禍で社内ファシリテーター育成に動く企業が急増

 「ファシリテーター」という言葉から連想することは何でしょうか。会議やシンポジウムの進行役? 確かに、立ち位置としてはそうしたポジションの人がファシリテーターを務めることが多いですが、単に会議を進行することだけがファシリテーターの役割ではありません。

 コロナ禍に見舞われた2020年は、社内ファシリテーターを育てようと考える企業が増え、僕たちの会社にもそうした依頼が非常に多く寄せられました。なぜ、ビジネスの場でファシリテーターが求められているのでしょうか。今回はまず、ファシリテーターが行うこと、つまりファシリテーションがどういったものなのかをお話ししたいと思います。

 専門家の間でもファシリテーションの捉え方には幅があって、狭義には「会議や話し合いをよりスムーズに、効率化すること」と捉えている人もいれば、「組織の方向性を決めたり、課題を解決したりするための営み」とマクロ的に捉えている人もいます。いずれにしても言えるのは、当事者一人ひとりの内面にある意見や感情を尊重して、それがきちんと場に出せるよう引き出し、話し合うことを大事にするものだということです。

「一人ひとりの感情や思考をきちんと場に出すことで、さまざまな素材が混ぜ合わされ、コトコト煮ているうちに新しい料理が生まれる。ファシリテーションで大事にしていることを表現すると、そんなイメージです」(ミミクリデザインCEO・安斎勇樹さん)
「一人ひとりの感情や思考をきちんと場に出すことで、さまざまな素材が混ぜ合わされ、コトコト煮ているうちに新しい料理が生まれる。ファシリテーションで大事にしていることを表現すると、そんなイメージです」(ミミクリデザインCEO・安斎勇樹さん)

組織の問題の大部分は、目に見えない「人の心に関わること」

 企業や組織をよりよくする「組織開発」の分野では、「組織において目に見える問題は氷山の一角だ」とよく言われます。売り上げが下がっている、サービスが魅力的でない、離職率が上がっている……こうした事象の背景には、人の心の中や、人と人との関係性にまつわる問題があって、そちらの方が実は問題として大きく、なおかつ可視化されていません。

 そうなると、まずはみんなが何を認識し、どういう人間関係になってしまっているかというところをひもとく必要があります。それぞれが思っていることを表に出してお互いのことを分かり合った上で、何が問題なのかを話し合う場がないと、解決の入り口に立つことができません。もっと身近な組織の単位でも、例えばチーム内でのモチベーションが下がっているとか、企画会議でいいアイデアが出ないといったときにも、背景には人と人との関係性の問題があったりします。