女性としての体の「後半生」に起きる変化は万国共通。パリ郊外で指圧師として施療も行うジャーナリストの浅野素女さんが、40代からの心身の変化に向き合うフランス女性たちの素顔と、健やかな体との付き合い方を語ります。パートナーと別れたばかりの50歳のヴァレリー。渦巻く感情を、体の声は忠実に語っていました。

 18時以降の外出禁止が続くフランスで、その日最後の施療はヴァレリーだった。エレガントでいてシンプルな装いはパリジェンヌ特有のもの。姓に「ド」がついているので、いい家系の出身なのだろう。バツイチでふたりの高校生の娘を持つ、気品のあるマダムだ。

 仕事場の人間関係に悩んでストレスが高い人だったが、この日はことのほか表情に生気がない。脈診をとる私の問いかけを待たずに、彼女は自分から、吐き出すように言った。

 「からだがへなへなで全然力が入らない。海の底にいる気分よ。3年前から付き合っていた彼と別れたの

 単刀直入な告白に私の方がたじろいだが、聞けば、わずか一週間前の出来事だという。相手のマルクとは一緒に住んでいたわけではないが、娘たちもなついて、家族のようにいつも休暇は一緒に過ごしていた。

 「まだ娘たちには知らせてないの。実は、今日、私の50歳の誕生日なの。父親のところに行っている娘が電話してきて、『ママン、誕生日おめでとう。今夜は誕生祝いにマルクとレストランに行くの?』と聞かれて、とっさに答えが返せなかった……」

 ヴァレリーの娘たちのように、両親の離婚後、母親の新しいパートナーを受け入れてうまくやっている家庭はたくさんある。どちらの親と暮らしているかに関係なく、離婚後も両方の親が子どもの養育にかかわり、子どもとの時間をしっかり取るというのが常識である。伴侶と別れたとしても、親としての仕事は一生続く。しかし、親とてひとりの女性であり、男性である。山あり谷ありの親たちの人生に、子どもたちも振り回されることは否めない。

 脈診によると、ヴァレリーの「腎(じん)」の気はほとんど空っぽになっていた。「腎」は両親から受け継いだ先天のエネルギーといわれる。それが空っぽになるのはよほどのことだ。感情の起伏やストレスが直接響く心包経もノックアウト状態。さらには、肝経と肺経がやけに高揚している。