女性としての体の「後半生」に起きる変化は万国共通。フランスでは、心身のケアに東洋医学を取り入れる女性が増えているといいます。パリ郊外で指圧師として施療も行うジャーナリストの浅野素女さんが、40代からの心身の変化に向き合うフランス女性たちの素顔と、健やかな体との付き合い方を語ります。

 前夜にSOSの電話があって朝一番、パリ郊外の私の小さな指圧施療室に飛び込んできたのは、小学校教師のマチルド(43歳)だ。自宅の階段を踏み外して転倒。すぐ医者に診てもらった。フランスで人気のオステオパシー療法士にもかかった。だが、どうしても肩から首にかけての痛みが取れない。取れないどころか悪化している気さえすると言う。陸上競技が大好きで活動的なマチルドの顔色は、その日、確かにさえなかった。

 コロナ災禍の下、女性たちが抱える問題はフランスでも日本でもそう変わりはない。マチルドは数年前に卵巣がんで卵巣摘出手術を受けていることもあり、健康には特別の注意を払ってきた人だ。スポーツを欠かさず、「自分だけの時間」として、定期的に指圧施療を受けるのを楽しみにしていたのだが、昨年3月に外出禁止令が敷かれて以来、すっかりご無沙汰だった。

 在宅テレワークによって仕事の量は倍に膨れ上がり、自分の子どもたちの勉強も見ながら、多くの働く母親と同じく大変な思いで毎日をやりすごす中、自分のことはすっかり後回しになってしまった。夫も全面的にテレワーク態勢。毎日の食事の用意だけでも大きな負担である。この10カ月間、疲れとストレスはたまる一方だった。

 ここへきて、マチルドのようにコロナ脅威下のストレスを訴える人の数が目立つ。ストレスはさまざまな形を取る。転倒といううっかりの「事故」も、体や心のバランスが失われたことのひとつの現れであるかもしれない。そういえば、昨日も転倒した50代後半の女性を施療したばかりだ。彼女もテレワークのせいで根を詰め、気づかぬうちにワーカホリック状態になっていた。

 私はマチルドの話を聴きながら、背中から施療を始め、ゆっくり足先まで経絡を降りてゆき、あおむけになってもらってからは腹部から胸部を、さらに両腕の経絡をたどり、最後に頭側に回って肩から首筋、頭蓋をほぐしていった。

 痛い、痛いと言っていた部分に手加減しながら圧を加えても、痛くないと言う。体は「痛み」を通して訴えていたことが聞き届けられたことに満足したのか、すっかりリラックスし、失われていた中心軸を取り戻しつつあるようだった。指圧自体の持つ威力に、施療者である私自身が感心してしまうことが多い。

35年以上フランスで暮らす浅野素女さんは、40代のときに受けた施療がきっかけで東洋医学を学び、指圧師に(画像:ドキュメンタリー『La Voie du Shiatsu』、監督B. Seguin & M. Pierrardより)
35年以上フランスで暮らす浅野素女さんは、40代のときに受けた施療がきっかけで東洋医学を学び、指圧師に(画像:ドキュメンタリー『La Voie du Shiatsu』、監督B. Seguin & M. Pierrardより)