年齢に応じた変化をとらえ、寄り添い、恐れを克服する

 いのちというのはいつも揺れ動いている。健康も同じだ。揺れながら、季節に対応し、24時間に対応し、刻々と変化してゆくのが正常な姿である。東洋医学では健康を「気」という観点から捉えるが、身体的なショックやストレスや疲れなど、何らかの理由で気の流れがせき止められ、停滞してしまうと、病気を誘発する原因になる。気が停滞してしまう前にうまく流れを調節できれば(それが予防医学であるゆえんだが)、だいたい健康を保てる。

 私は「だいたい健康」でいいのだと思っている。世の中、強い人もいれば弱い人もいる。なにも「これぞ健康」という理想があって万人がそこへ行き着かねばならないのではなくて、体質により、年齢により、その人なりの健康が保たれていればよいのだ。

 「気」は五臓六腑(ろっぷ)をいつも同じ密度でめぐっているわけでなく、春は「肝」、夏は「心」、土用は「脾(ひ)」、秋は「肺」、冬は「腎」というように、季節に応じて気が充実する場所は移動し、常に変化している。その変化にうまくついてゆくことが、健康の秘訣だ。年齢にしても、年を重ねることを悲観したり、単に若さにしがみついたりするのではなく、年齢に応じた変化をうまくキャッチして、変化に寄り添うこと。そうすることで、変化への戸惑いや恐れを手なずけ、ひいては克服できるかもしれない。人生は変化の連続である。次なる変化は、それが「老い」へ向かう過程であっても、いのちという神秘的なドラマの貴重な一場面だと、私は思う。

 フランスで指圧が評価されていることに驚かれる読者も多いかもしれないが、私自身、フランスという西洋文化の住人だったから、かえって東洋医学の素晴らしさに気づけたとも言える。次回以降、フランスと日本の事情を比較しつつ、もう少し「健康」について考えをめぐらせてみたい。

文・写真(タイトル画像)/浅野素女