若い日の好奇心と常なる学びが自分を「船底から甲板へ」と引き上げた

――「出世したい」ということについて、男性が言うのは普通なのに、女性が口にするとアグレッシブすぎるのでは、という目で見られたりすることがあります。あるポストに就きたいと思っている女性はどんなふうに振る舞えばいいでしょうか。

鳥海 難しいですね。ガツガツ行ってもいいことはあまりないでしょうし、かといって、いつかティアラが降ってくるっていうのも甘い考えです。こうしたゲームのルールが分かっていない女性は多いと思うことはあります。

――ぜひそのルールを教えてください。

鳥海  「ここぞと言う時はちゃんと見せる」ということではないでしょうか。男性でも「出世したい」ばかり言っていたらあまり好印象は持たれないでしょうが、比較すれば女性のほうがより不利になると思います。理想論は別として、そこは男女で違うのが現実です。

 そうなると妙にみなさん謙遜して大人しくなってしまいますが、それではチャンスを逃してしまいます。自分を出す時には出す。それも「やっていますアピール」ではなく、ちゃんと仕事をしていることが分かってもらえる所作をすべきです。また、メールの書き方や言葉の遣い方なども含めて、常日頃からきちんと評価されるような動きをする。上の人に対してだけではなく、同僚や下の人も含めて常に見られていることを意識して、おのずとリーダーだと思われるような人になっていった方がいいのではないでしょうか。

 「自信がない」という声もよく聞きますが、それでいいと思うんです。自信がないからこそ準備をちゃんとして臨むと、結果的に準備をせずに臨んだ人よりも高い成果を上げるケースが多いという研究もあるそうです。私もすごく臆病なので、慎重に準備をするタイプ。ひょっとすると、それで今に至っているのかもしれません。

――最後に、女性たちへのエールをお願いします。過去のインタビューにあった「ずっと船底にいて、ある時甲板の上が見えた気がした」という言葉が印象的でした。これからもっと頑張って上をめざしたいという時に、どんな風に仕事と向き合ったらいいでしょうか。

鳥海 甲板に上がれた明確な瞬間があった訳ではないのですが、毎日仕事をしているうちに「世の中ってこういうことなんだ」と思った瞬間は何度もあります。ただ、そういう感覚は漫然と日々の仕事をしているだけでは多分訪れないと思うんです。私は船底にいた時も、甲板には何があるのだろうという好奇心はすごくありましたし、勉強もしました。他の人が何をしているのかも常に見ながら仕事をしていました。

 私が入社した時は同じ部署に新人が11人配属されました。全員女性で、総合職が2人に一般職が9人。職種は違うけれど、同じような大学を出てきて、できることに差なんてありません。だから朝はみんなの机を拭き、コピー取りや灰皿洗いもしました。そうすると先輩がどんな本を読んでいるのかも分かるし、コピー機に残っている書類があれば何だろうと思って見たりするわけです。ゴミ箱に捨ててある資料を拾ってファイルしたりしました。

 最近は与えられることに慣れている人が多いので、「会社が〇〇してくれない」などと言いがちですが、自分でできることはたくさんある。そうやって積み重ねていくことで、仕事は面白くなっていくのではないのでしょうか。

インタビュアー:麓幸子=日経BP社執行役員、取材&文:谷口絵美、撮影:鈴木愛子

【アクセンチュアの視点】
 女性の役員登用を進めるにあたり、トップのコミットメントだけではなく人事部にダイバーシティを持たせることも重要であるという点に同意です。
 人事部は、多様な人材が活躍できるように、旧来のやり方にとらわれず変化を生み出していく核となる必要があると思われます。
 一方で、女性自身の姿勢も問われるでしょう。いくら制度を整えても、女性自身が謙遜ばかりしていては変わらないというポイントは非常に重要です。
 自信がないという女性は多いですが、そうであれば周到に準備をして備えればよいという指摘は、多くの女性にとって重要な示唆となり、有効な対策になると思います。自分にできることをしっかりとやりながら、周囲からリーダーとして認められるような振る舞いを意識して実践することが肝要です。