29歳で中国へ赴任。「任せる」から「頼る」マネジメントへ

――これまでを振り返って、キャリアの転機になったのはいつでしょうか。

柏村 いろいろありますが、29歳からの中国駐在時代だと思います。自ら提案した中国版『ゼクシィ』創刊のため、現場責任者として赴任しました。

 それまでの私は、ゴールに向かってマイルストーンを切り、基本はメンバーに任せながら、ポイントごとにモニタリングするタイプでした。でも中国では商習慣の違いもあるし、当たり前ですが自分ひとりではほとんど何も仕事ができません。そこで、マネジメントスタイルが「任せる」から「頼る」に変わりました。ゴールを設定してスケジュールや法律違反などのOBラインだけを伝えたら、後は一任する。その人自身のスキルやケイパビリティを見立てたうえで、どんな方法で進めるかという部分も含めて全部「頼る」。日本に帰ってからもこの「頼る」マネジメントで働いています。

――なぜ「頼る」スタイルがいいと思ったのでしょう。

柏村 以前は自分が「こうやったらいいな」という方法を伝えて仕事を任せていましたが、やり方から考えてもらったほうが個人個人が活躍できます。それに、人は頼られたほうが頑張るという原点みたいなところにも向き合うことができました。

 その一方で、中国では苦い経験もしました。

「中国赴任での経験が今の仕事観をつくった」と語る
「中国赴任での経験が今の仕事観をつくった」と語る

――どんな出来事があったのでしょうか。

柏村 実は駐在は2度に分かれていて、最初は16人の現地スタッフと一緒に会社を立ち上げ、4年経って300人くらいの規模になったところで一度帰国しました。1年半後、今度はあまり業績が思わしくない状況の中で再度駐在。結局、現地パートナーに経営を委ねる判断をして、1年で日本に戻りました。そのときに、うまくいかなかった原因はもともと私が描いていた戦略が良くなかったことにあると思い知りました。

 それまでの私は、目の前のメンバーやサービスを使ってくれる人を幸せにすることだけに集中していました。しかし、家族のように一緒に頑張ってきた仲間が会社を去るのを目の当たりにし、未来に何かをつながない限り、経営者の意味はないんだということを身をもって体験したんです。最も大事なのは、人の育成や戦略も含めて、未来への構えを取っていくこと。そのときに深く学んだ仕事観が今につながっています。

――その後はどのようなキャリアを積まれたのでしょうか。

柏村 ポンパレというECビジネスのマーチャンダイジングの部長を務めた後、ホットペッパービューティーの事業長になり、4年目にヘルスケアの新規事業も見ることに。そのタイミングでリクルートホールディングスの執行役員になりました。

――さらにそのあと社長に就任されるわけですが、執行役員と社長の違いは何でしょうか。

柏村 私は現場が好きなので、気を付けないとつい見に行ったり、手伝いたくなったりしてしまうんですよね。でもそれは執行役員の仕事。今はありたい未来を創造し、アジェンダを設定することが私の役割です。どの範囲で何を誰にお願いするかをしっかり決めたら、後はその人の権限の中で成果を出してもらう。社長は未来を描きアジェンダをいかにシャープに設定できるかということが、大事なのだと思います。