2016年4月にリクルートスタッフィングの社長に就任した柏村美生氏は、リクルートに在籍していた29歳の時に中国での新規事業立ち上げを経験した後、「ポンパレ」や「ホットペッパービューティー」など、主に販促事業畑を歩んできた。どんな仕事に携わっているときも大切にしてきたのが、学生時代に重度障がいある人たちをサポートする中で抱いた、ある思い。自分自身のビジョンを大切に持ち続けながら身に付けた仕事観やキャリアの転機について聞いた。

「すべての人に役割のある社会を」――入社以来一貫して抱いていたビジョン

――こちらの部屋は会議スペースのようですが、ドアに「みお部屋」と書いてありますね。社長の執務室でもあるのでしょうか?

柏村社長(以下、柏村) 私は普段、ほかのメンバーがいる場所で一緒に仕事をしています。ここは以前はじゅうたん敷きのいわゆる「社長室」で、応接ソファと「西部警察」みたいな大きなデスクがありました(笑)。そういうのは私には絶対似合わないので、会議室に変えてもらったんです。窓際に飾ってある多肉植物は私の趣味。時には重たい内容の会議もあるけれど、なるべく居心地のいい空間にしたいなと思っています。

柏村 美生(かしわむら・みお)
リクルートホールディングス執行役員、リクルートスタッフィング代表取締役社長

1998年にリクルート(現、リクルートホールディングス)入社。ダイレクトマーケティング事業部で営業を経験した後、2002年に雑誌『ゼクシィ』の営業に異動。同誌の中国進出事業を提案して採用され、2004年から上海に赴任、中国版ゼクシィ『皆喜』を創刊する。CAPカンパニー美容情報統括部統括部長、リクルートライフスタイル執行役員などを経て、2015年4月にリクルートホールディングス執行役員、2016年4月にリクルートスタッフィング代表取締役社長に就任した。

――改めて、今のお仕事の内容について教えてください。

柏村 当社はリクルートグループの人材派遣会社で、5万人を超える派遣スタッフに日本全国で働いていただいています。派遣スタッフのほとんどは女性で、それぞれに多種多様なライフスタイルやニーズがあります。当社のミッションは「Workstyle Maker」。今まさに女性の働き方について多様な意見が交わされていますが、一人ひとりの「らしさ」にあった働き方を私たちのサービスを通じて実現できればと思っています。

――柏村さんは新卒でリクルートに入社されたそうですが、志望理由は何だったのでしょうか。

柏村 私はもともと、精神疾患の方たちの社会復帰をお手伝いするソーシャルワーカーになろうと思っていました。高校生のときにスペシャルオリンピックスにボランティアで参加したことをきっかけに福祉に興味を持ち、大学も社会福祉学科に進みました。

 大学時代は重度の障がいを抱えた方々のお手伝いをするボランティアをしていたのですが、そのときに「国の保障で成り立っている福祉では、障がい者の世界をよりよくするのには限界がある」と痛感したんです。課題の解決を、利益を生む「しくみ」にできれば、経済の中でいいサービスが生まれていくはず。そういうことが出来そうな民間企業に就職しようと思って、リクルートに入りました。

――入社後はいわゆる人材系の事業ではなく、販促系のメディアに長く携わってきましたね。

柏村 そうなんです。ただ、私には「すべての人に役割のある社会を創る」という自分自身のビジョンがあって、そのこと自体は販促事業や人材事業に関係なく、この20年間ずっとリクルートの中で変わらず大切にしてきました。

 例えば、直近ではホットペッパービューティーを担当していたのですが、女性の美容師の方は結婚して子どもが生まれると辞めてしまうことが多いんです。そこで、全国でワーキングマザーとして活躍する美容師の方向けにセミナーを開いたり、復帰したいと考えている「休眠美容師」と言われる皆さんのお手伝いをさせていただいたりしました。そうやって自分のビジョンを大切に貫けたことが、この会社で働き続けてきた理由だと思います。今こうしてリクルートスタッフィングに来て、より自分の「どまん中」に近くなったと感じています。