執行役員に就任、人脈や“作法”を教えてもらえたことが大きなサポートに

――そうした実績も評価され、2013年には社内初の女性執行役員に抜擢されましたね。管理職から執行役員になって驚いたことはありましたか?

陶山 役員になって、入ってくる情報量の多さに、まず驚きました。部店長時代とは比較にならないくらいの量です。それによって、見えてくるものの規模が一回りも二回りも大きくなりました。例えれば富士山の5合目から7合目に上がって景色が広がった感覚です。

 経営会議における議論のレベルの高さと、意思決定のスピードの速さにも驚かされました。経営陣の一員として判断するための知識と情報収集には相当な勉強量が必要で、自分の考えをまとめたり、その論拠となる資料や情報源を調べるために図書館に通い詰めました。

 部長職のときは業務の8割が社内でしたが、役員になってからは社外や異業種の方々、海外との接点も増え、物事を考える視点も大きく広がりましたね。部店長以上に忙しく責任も重くなりましたが、会社の将来を決める場に参画でき、自分自身の考えを発言する権利があり、それによって会社が成長する姿を体感できる醍醐味がありました。

――女性を役員に登用した後、周囲が何のフォローもしない会社もあり、女性が孤立してしまうケースもあります。陶山さんが役員になったとき、周囲のサポートはありましたか?

陶山 女性初だからということもあったのでしょうが、役員になったとき、社長や上司から、私に期待することや、どういう役割を果たすべきかということを、きめ細かくお話いただいたことがとても役立ちました。周囲の部店長の方々も、人脈作りであるとか、本社の中での物事のすすめ方といった暗黙の“作法”のようなことまで、時間をつくって教えてくれたのです。

――人脈とか“作法”のようなインフォーマルな情報を共有してもらえたことは、大きいですね。

陶山 それは本当に感謝しています。会社が女性の役員を本気で育てようとしていることを感じましたし、部長や役員の皆さんが私に足りない経験を補完するため個人的にサポートしてくださったことは、何よりの励ましになりました。

 昨年、2人目の女性役員が就任したのですが、私自身も自分の人脈や経験を彼女にギブバックすることを心掛けました。自分が歩んできた道を次に続く女性にしっかり伝え、スタートラインがゼロからではなく、2や3からスタートできるようにサポートするのも、今の私の役割と感じています。

――初の女性役員として、陶山さんにはどういう役割が期待されていたのでしょうか?

陶山 役員になったとき、社長や上司の方々から言われたことが3つあります。

 1つは、「自然体で常識にとらわれず、感じたことを感じたままにチャレンジしてほしい」ということ。

 2つめは、私の強みはこれまでの業務で培った現場経験と、お客様や担当者の声をよく知っていることで、「その経験を生かして役員の立場から発信してほしい」ということ。

 そして、「女性活躍推進のトップランナーとして女性が抱える問題を経営陣に提言し、これから続く女性リーダーの育成、サポートをしてほしい」ということです。

 社長はよく個別に声をかけてくださり、「今、何に苦労しているのか」とか「周りの部店長や課長クラスの女性は何を期待しているのか」などについて、直接話をする時間を設けてくれました。そこで自分の意見をお伝えしたり、全国各地の研修で自分自身の経験を話したり、女性社員のメンター役になってアドバイスを行うなど、女性活躍推進の橋渡し役になれたのではないかと思います。