トップダウンで改革を推進。多様な人材が活躍できる企業風土へ

――『プロジェクト・プライド』はどのように進めたのですか?

江川 私自身がプロジェクトリーダーとなり、前面に立って推進しました。社員の反発は当然あると想定していましたので、「自らが責任を持ち、トップダウンで強力に進めなければ変革はできない」と考えたからです。

 プログラムの実践には、当社がビジネスとしてお客様に提供している、組織改革のフレームワークを活用しています。私自身、マネジャー時代に、これを用いてクライアント企業の組織改革を手がけたことがありました。

 多様な人材が活躍できる労働環境や企業風土に改善するため、3年間のロードマップをつくり、コミュニケーションやビジネスマナーなどの意識改革や、残業削減をはじめとした制度改革に取り組みました。1年間で採用から研修、給与制度、労務管理まで、約25の制度や仕組みを変え、新しい働き方を実現しました。

――想定外だったことはありましたか?

江川 当社がビジネスとしてお客様に提供しているフレームワークを用いたので、想定外ということはあまりありませんでしたが、一つ挙げるとするならば、評価の仕組みを変えたときの社内の反応です。これまでは大変なときに夜遅くまで残って仕事をする社員のほうが、評価が高い傾向がありました。それを、「同じ100のアウトプットであれば、10時間かける人より8時間で仕上げる人のほうが有能である」と明確に評価する仕組みに変えたのです。そのときは社内で反発がありました。男性からだけでなく、女性からも反対の声が上がったのは、想定外でしたね。

――投下時間が長いほうが良い成果が出るという固定観念が、女性社員にもあったのですね。

江川 そうですね。残業を容認するカルチャーが根深くあり、「早く帰る人のほうが優秀だ」と意識を変えるのは大変で、今でもずっと言い続けています。

――働き方改革が成功した要因はどこにあったのでしょうか?

江川 一つは、AIやロボティクス(RPA=Robotic Process Automation)を活用した生産性の向上です。例えば、これまで管理職がプロジェクト管理のために何時間もかけて手入力していた作業を、自動で入力できるツールを開発しました。また、社内の問い合わせに、上司や関係部署に代わってAIが自動的に答える「チャットボット」も導入ました。こうした時間削減の積み重ねが、社員の負担軽減に効果をあげています。

 もう一つは、毎月、現場での実行状況を調査し、数値化して変化をモニタリングする仕組みを導入したことです。その数字を見れば、リーダーのコミットメントの度合いや現場の課題が一目でわかります。結果が悪ければ改善策を練り、また実行するPDCAサイクルを回したことも、実効性を高めたと思います。

――制度面だけでなく、人に優しい企業になるための風土改革も行ったそうですね。

江川 印象深かったのは、組織風土変革の一環として、社員とその家族を集めたクリスマス会で「日頃の感謝を伝えるキャンペーン」を実施したことです。社員から奥さんや子どもに向けた約1000通の感謝のメッセージが集まり、その数にも内容にも感動しました。数年前までは男性社会の競争的なカルチャーで、素直に感謝を伝えあうような社風ではなかったので、本当に驚きましたね。

女性社員が増え、デジタルシフトが進んで業績も上がる好サイクルに

――成果への自信はあったのでしょうか?

江川 数字で目に見える成果が出るまでは半年くらいかかりますので、「本当にこの取り組みで会社が変わるのか」という声も多くあり、「自分がやっていることは正しいんだろうか」と悩んだ時期もありましたね。

――最初にどんな成果が出たのでしょうか?

江川 まず残業時間が減りました。以前は夜遅くまで働くのが当たり前のカルチャーでしたが、今は1人1日平均1時間の残業にまで減っています。

 離職率も以前の半分以下となる一ケタ台になりましたし、有給休暇取得率は70%前半から約80%に向上しました。

 こうした変化により、採用における女性の応募も増加し、新卒の女性採用率は以前の20%から44%に倍増しています。

 強調したいのは、業績もこの2年間で2ケタ成長を続けていることです。

――ビジネスで2ケタ成長を継続させつつ、労働環境も改善させているとは、特筆すべき成果ですね。働き方改革で女性が活躍しやすくなったことが、業績の拡大にも寄与していると思われますか?

江川 思いますね。改革の成果で、特にこの2年間で当社のデジタルシフトが急速に進みました。今ビジネス界で進むデジタル化というのは、SMACS(ソーシャルネットワーク、携帯端末などのモビリティ、アナリティクス、クラウド、センサー技術)などの分野です。

 アクセンチュア全体で、デジタルに関連するビジネスは、2年前は5~10%にすぎませんでしたが、現在は45%に上ります。その大半は女性のパワーによる拡大です。というのも、デジタル業界は従来のIT業界と比べ、女性の比率が高く、女性が活躍している分野の一つだからです。