役員には会社を主語に考える視野の広さと構えの大きさが大切になる

――そして、2012年に執行役員に就任されました。どんなサプライズがありましたか。

折井 生え抜きの女性が役員になるのは初めてでしたので、私自身も周りも驚きました。それだけ時代も社会の価値観も変わったということであり、会社も変わろうとしていることを表す一つの象徴的な出来事だったのかもしれません。

 実際に役員になってまず驚いたのは仕事のスケールの大きさです。会社の中でも外でも、参加できる機会、得られる情報、出会える人、すべてのスケールが変わり、「新しい景色」が開けました。役員会議にも出るようになって、「経営というのはこうやって協議されて決められていくのか」というのを目の当たりにしました。

 一方で、当初は女性役員が私1人だったので、改めてパイプラインを充実させることが必要ということも感じました。ただ、現在はサントリーホールディングスとサントリー食品インターナショナル2社の62人の役員中、生え抜きの女性役員は3人となっています。これくらいいるとマイノリティとはいえやはり存在感があって、心強さが違います。

東日本大震災当時はCSR担当の役員として復興支援にかかわった
東日本大震災当時はCSR担当の役員として復興支援にかかわった

――それまでの課長、部長といった管理職と役員とでは、求められるものにどんな違いがあると感じましたか。

折井 役員になったとき、CSR担当として東北の復興支援に携わりました。サントリーは被災地の産業の中心である漁業の復興のお手伝いや、被災した子どもたちへ遊び場を提供する等の活動を行いました。その中で私は会社の代表として被災された県の知事や市長にお会いしたり被災地の学校を訪ね、お話しするという経験をさせてもらいました。

 このように、役員になると会社を代表する立場で社会と接することになりますし、「サントリーとしてどうですか」ということも問われたりします。そのときに、自分の主語を大きくしなくてはいけないと強く思いました。「私が」でも「担当の課や部が」でもなく、「サントリーが」どう考えているのか。主語の大きさに見合うような視野の広さと構えの大きさを持てるよう、成長しなくてはいけないと今も感じています。

 また、会社の中でも外でも思うのですが、役員の方というのはみなさん向上心がすごいんです。新しいことも恐れずどん欲に吸収して、常に自分のストックを増やし続ける。役員に必要なスキルやコンピテンシーは当然いろいろあるでしょうが、それ以上に変わらぬ向上心と変化を恐れない勇気を持つことが、役員として必要なマインドセットではないでしょうか。

――役員としての仕事の醍醐味を教えてください。

折井 やはり「新しい景色」が開けることが一番大きいですね。サントリーではキャリアについて「仕事を通した自己成長のプロセス」と意味づけているのですが、役員というのは経験と出会いの変化によって成長させてもらえる、素晴らしい機会を与えられる立場です。

 自分にとってウェルカムな変化もそうではない変化も、成長のチャンスととらえて前向きに進む。そう考えることでプレッシャーも乗り越えられます。

――日本で女性役員の登用が進むために必要なことは何でしょうか。

折井 三つあると思います。一つは、女性が活躍する場を広げていこうという機運が組織の中に生まれていること。外圧や世間体ではなく、経営の意思として自ら進めようとしていることが現場にも伝わっていることが大事です。

 その上で、女性のパイプラインが充実していることが二つ目。これはリクルートワークス研究所の石原直子さんが講演でおっしゃっていたのですが、「パイプラインは流れてこそ意味がある」。パイプラインの中にもガラスの天井を作らず、課長から部長、役員というふうにステージアップしていくことを、女性自身も企業側も認識することが必要です。

 そして最後は「やってみなはれ」です。女性役員はまだまだ前例が少ないので、登用する側も確信が持てないし、当の女性にしてもロールモデルがほぼいない中で覚悟や自信がある人はなかなかいない。でもお互いに確信が持てるまで待っていたら状況は変わりません。そこは可能性を信じて、登用する側もされる側も一歩踏み出すことが大事なんだと思います。

――最後に、女性たちへのエールをお願いします。

折井 今は特に女性活躍という風が吹いていて、大きな環境の変化が起こっています。前例や経験が十分でない中で、自信や覚悟が持てないのはある意味当たり前。自分が変化していくことを恐れずに、ぜひ可能性を信じてチャレンジしてください。

インタビュアー:麓幸子=日経BP社執行役員、取材&文:谷口絵美、撮影:竹井俊晴

女性役員登用には「やってみはなれ」の精神が大事と語る
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◆2017年9月1日公開の記事を再掲載しました。