2012年に、サントリーホールディングスで生え抜き社員として初の女性役員に就いた折井雅子氏。同社の女性活躍を象徴するパイオニア的存在だが、入社当初は管理職など想像もできない「お茶くみやコピー取り」の日々だったという。キャリアアップの道筋もおぼろげな中、目の前の仕事に誠実に取り組むことで着実に前進し続けた軌跡と、自らの経験を通してつかんだ「リーダーに必要なマインドセット」について聞いた。
新人時代の学び-どんな仕事でも次へのステップになる
――折井さんは、入社当初から管理職や役員といったポジションをイメージすることはあったのでしょうか。
折井氏(以下、敬称略) いいえ。今から30年以上前、私が新卒でサントリーに入社した当時は女性の管理職など想像もつかない時代でした。
大学で社会心理学を勉強していてマーケティングに興味を持ち、お酒の持つ世界観にひかれてサントリーに入社しました。希望通りマーケティング室に配属されましたが、最初の担当は庶務的なことが中心。朝一番にまずやるのは、部署内の一人ひとりの好みに応じてお茶やコーヒーをいれること。また、今のようにEメールもなく文書のやりとりは基本的に紙ベースでしたので、書類のコピーをとって封筒に入れ、宛名を書いては発送していました。
――そうした日々の中で、転機が訪れたのはいつでしょうか。
折井 これは「意識の転機」になるのですが、そうした地道な仕事をしていたときに、たまたま隣の課の課長が声をかけてくれて、「飛行機も人間も、滑走期間が長い方が高く遠くへ飛べるもの。今は滑走期間だと思って仕事を頑張りなさい」と言われたんです。するとコピーを取るのでもただ漫然とやるのではなく、意識を変えるだけで「こういう文章はこういう言い回しをするのか」「社内にはこういう人間関係があって、部署間でこんなやりとりがあるんだ」といったことが自然にインプットされる。実際、それが後々の仕事にとても役立ちました。
仕事は「何をするか」だけではなく、目の前のことを自分がどうとらえるかが大切。のちに人事で人材育成を担当することになったときに、改めて「キャリア」とは何かを勉強すると同じ考え方が出てきたんですね。入社1年目の新人のうちに気づけたのはある意味とても幸運だったと思います。
こうして下積みともいえる期間を経て小さな商品を任されるようになり、ワインやカクテル、リキュールの商品開発を十数年間担当しました。