女性経営陣が増えれば新たな視点が生まれる 多様性を生かせば価値の最大化も期待できる

――そもそも、経営層に女性が増えることのメリットは何でしょうか。

志賀 三つあると思っています。まず、日本の企業は終身雇用が基本ですから、経営陣には同じ国籍で男性の、何十年来知った者同士が集まるわけです。考え方も似通るし、どうしたって多様性に不足しています。そこに女性が加われば、視点も持っている常識も異なるので、男性陣があうんの呼吸で疑いをもたず進めるところに問題提起をしてくれる。これは非常に重要なことだと思います。

 次に、どんな会社もそうですが、人口比率を考えればお客様の半分は女性です。自動車の場合、男性のお客様でも選んでいるのは妻や恋人だったりするので、だいたい6割は女性が意思決定をしていると言われています。会社がより顧客本位の経営をしていこうとするならば、女性の視点や考え方を理解できる意思決定者が経営層に一定数いることが当然必要になってきます。

 三つ目は最近いろんなところで話していることですが、そもそも社会は男女が50対50で存在して、いろんな違いが混ざり合って成り立っているものですよね。そうすると、50×50=2500。これがもし男性60、女性40だったら2400だし、男性80、女性20だったら1600になる。つまり、社会のあらゆるしくみは男性と女性が50と50であることで、価値の最大化がなされているんです。

「女性と男性が同数いるほうが価値が最大化します」とビジネス上のメリットを語る
「女性と男性が同数いるほうが価値が最大化します」とビジネス上のメリットを語る

――グローバルも含めて、志賀さんご自身が女性役員の力を実感した経験はありますか。

志賀 日産とルノーのアライアンスでは、私のCOO時代にはルノーのエグゼクティブコミッティのメンバーの中に3人の女性がいました。人事とリーガル、それにエンジニアのトップである開発の担当も女性です。そのことにも驚きましたが、なにより女性がエグゼクティブとして仕事をしていることが、本人も周りにとってもまったく違和感がないことが印象的でした。日本であれば、やはり若干のプレッシャーや気負い、周りからの嫉妬みたいなものがあると思いますが、彼女たちはすごく自然体。きわめてプロフェッショナルに物事を指摘してくるし、一緒に仕事をしていても性別を特に意識することがありません。でもその一方で、一人の妻であり、母でもある。女性が当たり前に働けるフランスという国の成熟度を感じました。

 日産で印象に残っているのは、昨年メキシコ日産の社長になったマイラ・ゴンザレスという女性です。若いころは見るからに強そうな近寄りがたいキャリアウーマンといった印象で、そんな彼女と昨年久しぶりにメキシコで会いました。わずか39歳で年間80万台を生産する重要拠点の社長に就き、プライベートでは夫と7歳の子どもがいる。もともと強い人だし、海外の女性だから子育てもベビーシッターさんに頼んでバリバリ働いているんだろうと思っていたら、子育てしながら仕事で責任を負うことの大変さみたいなことを少し吐露したんです。思いがけないことでした。

 やっぱりどの国でも同じなんですね。働く女性、役員になるような女性だからといって誰もがメンタルが強いわけではない。それぞれ抱えるものがある中で頑張っている女性たちを、男性はちゃんと応援しなくてはと思いました。彼女にはそのとき、「何かあったらメンターをやってあげるからメールを送りなさい」と伝えましたが、すぐに「志賀さんにああ言ってもらえてすごくうれしかったです。ありがとう」とメールが来ました。

2016年、メキシコ日産の社長に就任したマイラ・ゴンザレスさん。39歳のワーキングマザーが、重要な拠点であるメキシコ日産のトップになった
2016年、メキシコ日産の社長に就任したマイラ・ゴンザレスさん。39歳のワーキングマザーが、重要な拠点であるメキシコ日産のトップになった

――志賀さんが考える、役員に必要な能力とは何でしょうか。

志賀 私は三つの能力についていつもお話ししています。

 まず、仕事ができることはプロフェッショナルとしてのベースです。仕事に必要な専門知識やスキル、成果を出している人の行動特性を身につけ、きちんと周りから評価を受ける。先ほど「『私にやらせてほしい』と積極的に手をあげて」と話しましたが、やらせてみたら知識もスキルもなかったでは、その上にはまず行けません。

 次に、チームを動かしていく力です。人の上に立っていくためには、自分一人で仕事ができてもダメ。チームリーダーとしてきちんとビジョンや方向性を示し、みんながそれをいいと思って同じ方向に向かっていける。私はこれを「信頼で人を動かす力」と言っています。

 この二つの能力があれば、管理職までは行くことができます。ただ、これだけでは役員にはなれません。役員になるためには今まで当たり前にやってきた仕事を変えていく、「変革する力」が必要です。ではどうやったらチェンジリーダーになれるかというと、明らかに修羅場の数で決まります。

 修羅場というのは失敗もあるし、泣いてもいるし、悔しさにまみれて、二度とこんな過ちは繰り返さないぞと思ったりもしている。そういう経験を乗り越えた人は怖いものがなくなります。すると、当たり前のようにいつもやっていることに対して「意味がないから、やめませんか?」と言い出せる。

 だいたい女性が役員まであがってくると、間違いなく嫉妬と、「お手並み拝見」の視線にさらされます。重責のプレッシャーも大きいし、その上家に帰れば難しい年ごろの子どもがいたりして、いろんなストレスが山のようにあるわけです。そういうときに修羅場を超えてきたメンタルの強さがないと、とてもやっていけません。どうやって鍛えるのかと聞かれたら、答えますが。