役員には、大きな責任やプレッシャーに打ち勝つメンタルの強さが求められる。そうしたタフさは「会社員として成長する過程で修羅場を経験することによって鍛えられる」と話すのは、日産自動車で長年にわたり女性活躍推進に取り組んできた、産業革新機構CEOの志賀俊之氏だ。そして、その「成長の過程」にこそ、女性の経営層への登用が進まない原因があるという。企業経営に「女性の視点」が加わることの意義とそのために必要な環境づくりについて聞いた。

男性の無意識の偏見や差別で優秀な女性が伸び悩んでいる

――日本ではいま経営層に女性を増やそうという動きが進んでいますが、まだまだ少数にとどまっています。どうしてだと思われますか。

志賀会長(以下、敬称略) 男性が、無意識のうちに男性ばかりを育てていることに原因があると思います。

 学校を卒業して会社に入る時点では、女性のほうがはるかに優秀です。学業もそうだし、やる気や意欲もあって男性よりしっかりしている。ところが会社に入ると、男性の先輩は男性の後輩に仕事をいろいろ教えたり、「最近失敗続きじゃない?ちょっと飲みに行こうか」とメンターをやってあげたりします。女性に対しては「メンタリングしなさい」と上から強制的に言わない限り、誰もやりません。

 また、男性の上司にも無意識の偏見、いわゆるアンコンシャスバイアスがあって、難しい仕事があったときに「これはちょっとタフな仕事だし、男にやらせよう」と判断してしまうんです。人の成長というのは、訓練されてチャレンジングな仕事を任され、成功も失敗も経験した道のりの先にあるもの。育成の過程でそうした「無意識の差別」が何年も続くと、管理職にするかどうかの段階で「経験が足りていないよね」「修羅場をくぐってないよね」という理由で女性は選ばれなくなります。「やらせなかったのはそっちだろう!」って話なんですけどね。

――管理職にする際に差別されるのではなく、成長の機会が同じように与えられなかった結果として、女性の管理職登用が進まないのですね。

志賀 何人かの管理職の男性に「無意識のうちに男性の部下にだけチャレンジングな仕事を与えているでしょう?」と聞いたことがありますが、みんな「そんなことはありません!」と口をそろえました。だから、まずは無意識の偏見があることを男性が認識して、その上で取り除く努力をすることが大事なのです。会社も「ダイバーシティが重要だ」「女性登用の数値目標を達成しろ」と言い続けることで、女性の部下を育成することを義務として受け止めてもらうよう後押ししていく。日産でもそうやって男性管理職の意識改革を進めています。

 人は、若干べそをかく程度の失敗をしたほうが伸びるものです。そういう経験を無意識の偏見なしに男女の部下にさせられるようになったら、もともと女性のほうが優秀なのだから、自然と女性の管理職が増えていくと思います。実際、そうした風土に変わりつつある会社もたくさんありますが、一方でまだまだ古い体質のところもあるでしょう。そういうときは、勇気をもって「私にもやらせてください」と声をあげてほしいですね。

志賀 俊之(しが・としゆき)
産業革新機構 代表取締役会長兼CEO、日産自動車取締役

大阪府立大学経済学部卒業後、1976年に日産自動車入社。アジア大洋州事業本部アジア大洋州営業部ジャカルタ事務所長、企画室長、アライアンス推進室長を経て、2000年に常務執行役員に就任。05年から代表取締役最高執行責任者となり、13年から17年6月まで副会長を務めた。15年から産業革新機構会長兼CEOを兼務。同年、男女共同参画社会づくり功労者内閣総理大臣表彰受賞。