経営層として持つべき8つの要素があるが、女性は「交渉力」「エグゼクティブプレゼンス」が苦手

――ここで改めて伺いたいのですが、役員をめざす際に身につけるべき能力とはなんでしょうか。

堀江 アクセンチュアのリーダーシップ研修では、役員に求められる能力を「信頼性」「EQ」「エグゼクティブプレゼンス」「影響力」「強いネットワーク」「グローバルプレゼンス」「俊敏性」「交渉力」の8つに整理しています(図表)。この中で女性がとくに苦手意識が強いのが交渉力だと言われています。みなさん交渉の仕方にこだわりますが、そもそも交渉とは何かが意外に分かっていない。交渉が発生するのは敵対関係があるからと考えてしまいがちです。交渉とは相手と対等な関係で、建設的にどう物事を進めるかのオプションを互いに出し合い、合意点を探ること。こういった交渉そのものに対するバイアスを紐解くことのほうが大事だと思います。

 あとは、エグゼクティブプレゼンスも日本の女性は苦手です。なんとなく優しく見られようとしたり、控えめに話を切り出したりしがちで、相手から「この人は何の役割を担っている人か分からない」と思われてしまう。なぜそうなるかというと、女性に対し、その場や立場に合った振る舞いをしなさいと教えてくれる上司がいないということもあります。また、自分のバックグラウンドやスキルに自信がなかったり、立場相応に堂々と振る舞うことに女性自身が抵抗もあったりして、いろいろ複雑です。

経営層として持つべき8つの要素
8つの要素の中で「交渉力」が女性は弱い。女性は交渉を敵対関係と捉えがちだという

――日本では、お手本にできるエグゼクティブの女性があまり多くないということですね。

堀江 日本では身近にいるエグゼクティブというと中高年の男性が大半なので、女性としてお手本にはしにくいですよね。

 大切なのは、交渉や大事な会議の場で、自分にどんな役割が求められていて、そのためにどういう言動を取るべきかを考えることです。アクセンチュアの仕事でいえば、企業と企業の間で小さくない額のお金が動き、しかも扱っているものが商品のように目に見えるものではありません。ですから、「いかに信頼してもらうか」が何より重要です。実績を作ることだけでなく、信頼される雰囲気を作って、なおかつそれが相手に伝わらないといけない。これはどの仕事でも同じだと思います。

 ほかにも女性に多い傾向として、仕事を頑張りすぎるあまり、所属するコミュニティが仕事関係の1点集中になりがちです。でも、趣味の知り合いやママ友などいろんな方向にネットワークがあるほうが、何かで行き詰まったときに別の切り口から意見をもらえたりして、判断の助けになる。それにエグゼクティブとして外に出ていくようになると、「ボランティアはどういうことをされていますか」「ご趣味は何ですか」など、その人の「幅」が問われるようなシーンも増えます。

 仕事でも、あまり自分と接点がなかった立場の方とのコミュニケーションも重視した方がいいと研修では伝えています。

――役員と、その下の職位の管理職との役割の違いは何でしょうか。

堀江 会社によって違う部分はあると思いますが、役員の一員になると、会社全体の課題に対しても対応することが求められます。私も立場的には金融サービス本部の一領域を担当していますが、他の部門の課題も把握しながら仕事にあたっています。

役員になり、大きな決定権を持つ。外からの期待も大きくなったと感じる。組織を代表するプレッシャーもあるがやりがいも大きい

――堀江さん自身、MDや役員になって変わったと感じることはありますか。

堀江 会社全体のことを考えて行動することが多くなりましたし、お客様からの期待が大きくなったことも実感しています。それまでは遠慮がちにお願いされていたことも、責任を持ったことでどんどん頼まれるようになりました。一方で、組織を代表して交渉している自分がミスをすると、組織のメンバーの評価にも悪影響が出ます。その点は何より肝に銘じなければいけないことだと思っています。

――最後に、役員を目指す女性へのエールをお願いします。

堀江 私は役員になってみて、それまであった立場の限界がなくなり、海外も含めた会社のスケールを使ってお客様に最善の提案をできることに一番のやりがいを感じています。

 管理職になることと同じように、以前想像していたことほどは難しいことではないです。実際は失敗したっていいし、なってみて向かないならやめてもいい。でも、可能性は限りなくあり、制約も意外とあるようでないので、自分がやってみたいと思えるのならば、心配せずぜひ挑戦してみてほしいです。

インタビュアー:麓幸子=日経BP社執行役員、取材&文:谷口絵美、撮影:大槻純一