ダイバーシティ経営を推進する上で企業が取り組むべき重要な課題の一つが、経営層における女性の増加を促すことだ。政府は「2020年10%(2020年までに上場企業における女性役員比率を10%にする)」という目標を掲げているが、現場を見渡してみれば課長クラスまで引き上げるのがやっとで、その先がなかなか続かないのが実情ではないだろうか。日経BP社では、「優秀な女性の役員登用」を目指し、これまで、「ウーマン・エグゼクティブ・カウンシル」を2回開催してきた。同名のデジタルメディアをスタートさせて、リアルイベントとメディアで「女性役員登用」の社会的ムーブメントを創出していきたい。この連載では、先進企業の経営幹部や今まさに活躍中の女性役員を取材し、「女性役員登用のために何が必要なのか」について明らかにしていく。

 第1回はアクセンチュア執行役員の堀江章子さんに、女性幹部に求められる能力や育成環境の重要性について聞いた。

日本は経営会議に女性メンバーが増えることに期待が低い

――堀江さんには昨年12月と今年の5月に行ったイベント「ウーマン・エグゼクティブ・カウンシル」に登壇いただきました。その際、アクセンチュアが世界30カ国以上で行った調査で「2020年までに経営会議メンバーの女性比率が増えるか」と質問したところ、「増える」という回答が日本はわずか37%だったというお話がありましたね。

堀江氏(以下、敬称略) はい。これは先進国の中で最も低い数字です。他国の経営層と比較して、日本では女性がキャリアを上がっていくことにそれほど期待感を持っていないということが明らかになりました。

――それほどまでに期待が持てない要因は何だとお考えですか。

堀江 日本の経営層の方々にとっては、身の回りにいる女性の管理職がまだあまり育っていないという認識が強いのではないかと思います。育成するプログラムや仕掛けも模索中で、十分な実績が得られていないということもあるでしょう。

 ただ海外の例を見ると、育成の仕組みが整っている企業は実際にどんどん経営層に女性を増やしています。ニワトリが先か卵が先かではないですが、女性をきちんと育成するサイクルにのせることと、管理職に育てたい人がいる状態を作ることの双方に取り組めていれば、だいぶ状況は変わるのかなと思っています。

――堀江さんご自身は、役員になることを早くから意識していたのでしょうか。

堀江 いいえ。私はそもそもキャリアのゴールというものをあまり考えていませんでした。毎日頑張ったら一つ昇進できてよかったという感じで、行き先もよくわからずにすごろくをやっているような感覚だったんです。それが2003年にシニア・マネジャーになって、あるとき「リーダーシップ・ディベロップメントプログラム」という海外での研修に行ってみないかと声がかりました。全世界からリーダー候補が集まる、マネジング・ディレクター(MD)になる準備の研修でした。

 とはいえ、身近に日本人女性のMDは殆どおらず、MDになるのがいいことか悪いことなのかも分かりませんでした。しかし、研修に行ってみたら、いろんな国から女性のMDが来ていて、「私はこういう仕事をしている」「すごく大きいお客さんを持っている」「こんな仕事が面白い」といった話を聞くことができた。これは面白そうだなと、そのときようやく真剣にキャリアのことを考え始めました。

 単に会社から「もっと上を目指せ」と言われるだけでは「それって会社の思惑でしょう。私に何のメリットがあるの?」と思いますよね。でも実際に部長や役員になった人と接する機会があると、「頑張った分だけこんないいことがあるのか」ということが実感できて、上をめざすモチベーションにつながります。そういう体験ができる場を作ることは大事だと思います。

堀江 章子(ほりえ・あきこ)
アクセンチュア 執行役員 金融サービス本部 アジア・パシフィック 証券グループ統括 兼 インクルージョン&ダイバーシティ統括

大学卒業後、アクセンチュアに入社。1999年にマネジャー、2007年にマネジング・ディレクターに就任。金融各社の業務管理システムの構築、事業拡大・営業強化の支援などを担当。2016年からアジア・パシフィック地域の証券グループを統括。2014年からはインクルージョン&ダイバーシティ統括執行役員を兼任。能力や年齢、国籍や宗教、性別、LGBTなどの背景に関係なく多様な人材がリーダーとして最大限の力を発揮できる組織作りに尽力している。