「今の仕事の先に管理職や役員がある」ことを当たり前に思ってほしい

――最後に働く女性へのエールをお願いします。

大森 管理職とか役員を特別なものと思わないでほしいです。多くの男性は自分のやっている仕事の延長に管理職があると普通に思っているんですよ。それなのに女性はそう思えない人が多い。常に自分の仕事を一生懸命やっていれば、その先には「当然のこととして」管理職や役員という選択肢があると思ってほしいですね。その方が、自分の可能性がどんどん広がるのですから。

 今や、日本社会独特の終身雇用制が崩れつつあり、終身雇用前提の一律に右肩上がりの年次昇進システムでは機能しなくなってきています。けれどいまだに「自分のキャリアは常に右肩上がりでなくてはいけない」と縛られている人が多いようです。新しいことにチャレンジするのなら一歩下がったところからキャリアを構築したり、また育児や介護などのブランクでいったん後退することもあるかもしれません。キャリアも他の物事と同じように前進していると感じる時も後退していると感じる時もある。

 一歩二歩下がってもまた更に成長して最終的に前進していければいい。

 そういうしなやかな考え方にシフトしたほうがいいかと。形とかタイトルにとらわれず、新しいことを吸収できるチャンスがあったら迷わずにチャレンジして、本当の意味での自分の価値を高めていっていただけたらと思います。

 もし社内で社会貢献の場があるのなら、そういう活動にも新しい発見があるかもしれません。当社は社会貢献活動が盛んで子どもたちや復興、女性活躍推進への支援、文化・芸術支援を行っています。文化財保護プロジェクトでは、文化的・歴史的意義が大きく、かつ劣化の恐れのある芸術作品の修復を目的に世界の美術館・博物館に助成金を提供しています。昨年修復が完成したのは上村松園の傑作『序の舞』でした。また困難な状況にある子どもたちへの学習支援や体験の提供をしたり、DV被害者の女性の就労支援をしたり、そのような活動からも、仕事につながる何かを見つけられると思います。私自身もこうした活動の一部を支えることで人生を豊かにしてもらったように感じています。

 自分の知識や経験をつなげていく積極的な姿勢があれば、社内での認知度も上がり、活躍の場も広がるはず。好奇心とチャレンジを楽しむ心を持ち続けてほしいですね。

インタビュアー:麓幸子=日経BP総研フェロー、取材&文:船木麻里、撮影:大槻純一

【アクセンチュアの視点】
 環境や待遇の変化が起きたときではなく、自分が決心をしたときこそが人生の転機であった、そうご自分のキャリアを振り返っていらっしゃる大森さん。 ご自身の中から湧き出るチャレンジ精神や好奇心に素直に導かれより新しい世界に踏み出している、前向きな姿勢が素敵です。
 一般的に女性の中には昇進を打診されたときにためらうケースが多いとも言われています。次のステップでの責任の大きさへの恐れや、大きな意味でキャリアの労力に対してライフの中で報われるのだろうかという不確定さ…。そんなときに、この職務・役職はこうでなくてはいけない、と決めてしまうのではなくその扉の向こうにどういう世界があるのか、という興味に目を向けることで、そのとき訪れようとしている転機を楽しめるのではないでしょうか。
 未来に対して好奇心を持ち続けること、また、同時に、反対に過去と現在の実績は、感覚ではなくきちんと数値を伴って証明していけることもプロフェッショナルとしては大切です。