自分が何にプライオリティを置くか認識することが大事

――日本の女性はチャレンジングなことに躊躇してしまう人が多くて、昇進というオファーがあっても「できない」と感じて断る傾向があるといわれています。そんな女性にどうアドバイスしますか?

大森 本当にできないと思って断っているのでしょうか。その人なりに計算して、コストリターンが合わないと思っているのかもしれません。そのあたり、いまだに男性は比較的タイトルや肩書きなどの社会的地位が大切だったりすることもあるようですが、女性は労力に対して報われないと感じやすいように思います。

 ですからキャリアを選択していく中で自分が何にプライオリティを置くか認識していることがとても大事。私は好奇心が強くて、いろいろな事にチャレンジしてみたい性格です。これまでそろそろ違ったこともしてみたいと感じている時に新しいことができるオファーがあると、報酬やタイトルは気にせずにチャレンジしてきました。

 2014年から東京支店長になり4年経って、当初の課題はかなりクリアされてきたので、次は何を目標にしようかと考えていたら、2つの部署の統括を任されました。周りから忙しくなって大変ですねと言われますが、この歳でまた新しい事が学べて興味は尽きないです(笑)。

――ちょうどいいときにオファーがあるというのは、何かオファーを引き寄せる秘訣があるのでしょうか?

大森 どうでしょうか……、たぶん私は自分のアサインメントを狭く定義しないのだと思います。自分がやっていることに関係があることなら「そっちはどうなっているんだろう」と、興味の対象が自然に広がっていくんですね。そして他所のテリトリーまで入っていっておせっかいしたりする(笑)。

 私のそんな好奇心と、変化やチャレンジを楽しめる性格が、タイムリーなオファーにつながっているのかもしれません。

――女性役員を増やすために、企業がするべきことは何でしょうか。

大森 当社には私自身も含むカントリーリーダーシップチームが支援する「スポンサーシップシステム」という、中間層の女性たちがリーダーになるべく支援するプログラムがありますが、これは良いと思います。メンターはアドバイスやガイダンスをくれたり話しながら導いてくれる役割ですが、スポンサーはその人の可能性を評価して広告塔にもなってくれる人たちです。プログラムでは通常のメンターシップやプロフェッショナルスキルを向上させるワークショップも行いますが、対象となる女性たちのプロフィールやビジビリティが上がるように努めます。例えば海外からシニアマネージメントが来日した時など、様々な機会に女性社員が経営層に触れる機会を増やし認知されるようにするのです。

 また女性を評価する側の教育も必要でしょう。例えば、部下を「あの人、よくできるようになってきたね」などと言うとき、その「できる」は何を指すのでしょうか。漠然とした感覚的な評価は人材育成に望ましくありません。

 先ほどマネージメントに必要なものとして「メトリクスが明確なこと」と言いましたが、メトリクスがないと、自分と同じような人や同性同士のコミュニティで居心地よくしてくれる人を高評価しがちです。特に年配の男性は年下の女性とのコミュニケーションのとりにくさを感じると扱いにくいということで評価を下げちゃう。そのようなことをたぶん無意識にやっていると思うんです。

 だから自分の部下に対して「これができる人がチームに必要です」とか「こういうことをしてほしい、こうなってほしい」と、具体的に伝えなくてはいけない。昔は日本の企業では、あまり明確にしなかったようですが、そこは大いに改善すべき点だと思います。一般的に女性は真面目だから、明確なメトリクスがあれば、目標に向かって一生懸命頑張ります。もし一生懸命すぎるところが仇になり、視野が狭くなってきたら、管理職が「肩の力を抜いていこうよ」「こんなことをやってみたら?」などとアドバイスしてあげれば、女性はもっと積極的になり、役員も増えると思うのですが……。