世界最大の金融機関の一つである、バンク・オブ・アメリカ傘下のバンク・オブ・アメリカ・エヌ・エイ東京支店長に2014年8月に就任した大森美和氏。大学卒業後に勤めていた日系金融機関を辞めてアメリカへMBA留学、帰国後はメリルリンチ証券会社(現バンク・オブ・アメリカ傘下メリルリンチ日本証券)で数々の責任職を歴任し、メリルリンチ日本証券取締役副会長から現職へと大きく飛躍した。そんな大森氏を支えたマインドセットは何か? そして、働き続ける女性に必要な意識の持ち方についても話を聞いた。

MBA留学の「決意」がキャリアの転機に

――大森さんは20代半ばで銀行を辞めて、アメリカへMBA留学されましたが、やはりこのときがキャリアの転機でしたか?

大森 今振り返ると留学自体ではなく、留学を「決意した時」が転機でした。もう25年以上前のことです。私は大学を卒業して日本の信託銀行に就職し、新設のデリバティブの部署に配属になりました。そこで数年が経ち、外資系の金融の方に転職のお誘いを受けるようなこともありましたが、外資金融でキャリアを積むなどその時は考えられなかったですね。

 ただ、そのうちにテクニカルな知識や語学を含めたコミュニケーションスキル、異文化との付き合い方など、いろいろなことが自分に欠如している自覚が生まれて、それをどうやって克服していこうかと悩んだ結果、留学にチャレンジしようと思ったのです。

大森美和(おおもり・みわ)
バンク・オブ・アメリカ・エヌ・エイ東京支店長
コーポレートバンキング/グローバル・トランザクション・サービス本部長
慶応義塾大学経済学部卒業。米国ペンシルベニア大学経営大学院ウォートンスクールでMBA(金融・会計専攻)を取得。ハーバード大学にてメリルリンチスポンサーのウーマン・エグゼクティブ・プログラム終了。1995年8月にメリルリンチ証券会社入社。2014年8月バンク・オブ・アメリカ・エヌ・エイ東京支店長に就任。17年12月よりコーポレートバンキング/グローバル・トランザクション・サービス本部長も兼任。

――会社を辞めて留学するというのは、大きな決心でしたね。

大森 いいえ、最初はそこまでの決意はなくて合格したら考えればいいと思っていました。奨学金も必要だったし、TOEFLも受けたことがなかったので短い期間で自分がどこまでやれるかも定かではありませんでしたし。しかも男女雇用機会均等法施行後、女性総合職の一期生ということで非常にプレッシャーを感じていまして、勝手なことをすると今後の女性の採用に影響すると思っていたんですね。働きながら留学試験を受け、合格したので休職して留学させてほしいと申し出たのですが、前例がないということで却下され辞めざるを得ない状況だったのです。

――覚悟で臨んだ留学で得たものは何でしたか?

大森 知識よりもコミュニケーションとか異文化体験から得たもののほうが大きかったですね。自分が何を考えているのか、何をしたいのかハッキリ言わないと伝わらない文化の人たちとの交流から、多くのことを学びました。また会社を辞め、親にも反対されての渡米だったので本当の意味で自立できたと思います。

 驚いたことにアメリカに行くとすぐに就職活動だったんです。ゆっくり勉強している暇はなくて。9月から新学期ですが、すぐに翌年のサマーインターンシップの説明会や面接が始まりました。どこでインターンしたかが、翌年の正規採用に関わってくるから皆必死でした。そんな留学生活を経て日本に戻り、1995年にメリルリンチに就職しました。

――メリルリンチでの昇進のなかで、管理職やトップになってどんなことに気づきましたか?

大森 自分自身のパフォーマンスを上げることと、チーム全体のパフォーマンスを上げるというのは異なる次元のことであるということです。あるチームに働きかけてうまくいくことでも、他のチームに同じことが通用するとは限らないということも学びました。

 また、一つずつステップが上がるにつれてアクセスできる情報量が増えてきて、自分自身の興味の幅が広がり、知識も広がり、考え方も広がってくる。それがとても面白いなと感じましたね。

――自分の職務になかなかコミットできない人たちもいます。大森さんは、個人の責任を果たすという意識を全体が持つために、どんなマネージメントが必要だと思いますか?

大森 社員全員がオーナーシップを持って仕事をするのが望ましいのですが、これがなかなか難しいのです。

 一人一人が毎日の仕事をルーティーンとせず、新たな課題の発見や作業プロセスの効率化、工夫を絶えず行う、そして自分の職務に対してビジョンを持てるよう手助けすることが重要です。そのためになぜこの作業をするのか、この部署はどうあるべきか、尽きることのない問いかけを自他共にぶつけ、また日々の事象をできるだけ大きな流れの中で説明する。その繰り返しの先にビジョンが見えコミットメントが上がってくると思っています。

 また評価とアサインメントが明確なら、男女関わらず働きやすい、活躍しやすい環境になるでしょう。だからそのメトリクス(指標)を明らかにして、納得できる働き方に導くことが大切です。会社にもよりますが、一般論から言うと外資系では評価や昇格の基準がより明文化されている気がします。

 当社ではメトリクスを明らかにするために、パフォーマンスを上げている人が「どれだけ」数値を上げたのか、「どうやって」上げたのかという「what」と「how」の両面から評価しています。Meritocracy、あるいは実力や実績に重きを置かれるため女性でもパフォーマンスを評価されやすい。またパフォーマンスだけでなく、会社のカルチャーにどれだけ貢献しているか、リーダーシップを発揮するためにどんなアクティビティをしているかなど、いろんな角度からその人を評価するクリアなシステムを作っています。だれもが納得した評価を受けていると感じるなら、責任感も持てるのではないでしょうか。