本当のダイバーシティとは「自分を知る」こと

――自己肯定感が低かったり、自信がないと言う女性も少なくありません。そういう人にどんな声をかけますか?

吉田 なぜそうなのか、わかっているのはあなただけ、ということですね。なぜ自分をちゃんと評価できないのか。自分を評価できない人はリーダーにはなれません。なぜならそのような人は部下も評価しないから。プロダクトも評価しないし、市場もまっすぐに見られない。

 まず自分をよく見てください。あなたは何が足りないと思っているの? もう「なんとなく」って言うのはやめましょうよ。おかしな色眼鏡のなかで、自分の凝り固まった世界のなかで生きるのはやめましょう、と伝えたいですね。

 もし、男性のエグゼクティブたちが自分にない「良いもの」を持っているのだとしたら、そしてそれがあなたの劣等感になっているのだとしたら、じゃあそれを身につければいいじゃないですか。そういうことなんだと思います。

――自分に足りないものを冷静に見る、ですね。

吉田 そう。だから自分をサクサク分析して、自分を知り、相手を知るということがすべての鍵だと思います。ダイバーシティ&インクルージョンって、人が人を受け入れるということではなくて、最終的には「人の目を通して自分を知る」ことだと思いますね。

 例えば、外国人に「素晴らしい」と言われて、初めて日本食の良さを知るみたいなことでしょうか。人は絶対的な何かではなく、比較のなか、相対的ななかで自分を知るんです。そのなかで、劣等感を持つとか落ち込むといった暇があるなら、私は一歩でもいいから踏み出すほうがよっぽど有意義だと思いますね。

――理不尽に負けない、そのタフな心はどこから生まれてくるのですか?

吉田 私はインテリジェンスだと思います。いろんな事象に対して、感情までも分析して、「なにが足りなかったんだろう」と考えること。「どうしてこうなるのだろう」と、自分の方程式を知るということです。「私はこういう考えに基づいて、こういうジャッジメントをしたら、このような結果・反応があって、それに対してマイナスの感情を持った」というときに、その自分の方程式をどのようにチューニングしなきゃいけないのかと気づくことです。

 私もそうやって何度も自分の方程式をチューニングしてきて、そのたびに発見がありました。免疫ができれば、次からは対処できるようになります。そうやってタフになっていく。だから、リーダーというものは焦って作るものではないんです。ひとしきりの免疫力をつけなくてはいけないから。先ほど純粋培養ではダメといったのもそういうことです。

 でも大企業は素晴らしくて、その免疫をつくるために、ある程度の予防注射ができるんですよ。企業にナレッジが蓄積されているので。でもその予防注射を打ってもらって、自分の免疫にするにはある程度の期間が必要ですね。だからリーダーというのは、時間をかけて、タフネスも育てていかないといけないんです。

――管理職を目指す若い世代に向けてアドバイスをいただけますか。

吉田 今やっていることに無駄なことは何もありません。最近の若い人はみんな端折りすぎ、ショートカットしすぎです。すぐに「成功するための10カ条をください」と言ってくる。そんなものはありません。すぐに成果を出さなくては、と焦らないでいい。目の前に来たものを一つ一つ、誠実に丹念にこなしていけばいいんじゃないですか?「人生100年なんだからゆっくり行け」と言いたいですね。

 それに、リーダーになることが「目的ではない」ということも覚えていてほしいです。

 自分の力を100%発揮するためには、「人の上に立つリーダーになることがいいのか」それとも「シングルプレーヤーでいるのがいいのか」。さらには家庭と仕事のバランスも含めて、自分が自分の処方箋を微妙な匙加減で見つけることに醍醐味があるんです。

 私はコーヒーが好きで、朝は3時に起きてコーヒー豆を挽くところから始まるのだけど、その時間が一日で一番幸せですね。でもいつも同じように入れているのに、毎日味が微妙に違う。お湯の一滴なのか豆の一粒なのかわからないけど、その違いってなんだろうと思うんです。もしかしたらその日の気温なのかもしれない。だけど奇跡的に味がピタっときまる時があるんです。チューニングが決まった瞬間の楽しさですね。

――それが人生の楽しさでもある?

吉田 もちろん人生の楽しさにも通じます。若い人たちにも、なにか毎日の微妙な調合を楽しめる余裕みたいなのを持ってほしい。そんな中からいろんなものが見えてきます。それが豊かな自分の糧になり、生活になり、人生になり、キャリアになりということなんだと思う。私はそういうふうに自分に言い聞かせています。自分の心が豊かになれば見えてくるものがあるのではないでしょうか。

インタビュアー:麓幸子=日経BP総研フェロー、取材&文:船木麻里、撮影:大槻純一

【アクセンチュアの視点】
 人生に時折訪れる転機、吉田さんは自分自身のメンタリティのステージが上がれば転機はおのずとやってくるものだと考えています。その輝かしい経歴を積み上げてきたタフなメンタルを支えるのはインテリジェンスとも指摘されています。
 冷静に社会を見つめ、周囲の環境を見つめ、つまり結局は自分の中にもある良い面も悪い面も含めていろいろな要素を見つめることから逃げない姿勢。すべてのインシデントは「人」が原因という思いを持ち、リーダーとして多様な価値観を束ねていくためには自分を知り人を理解することが大切とおっしゃいます。
 環境の中の偶然性や他人の意思といったコントロールできない要素の中で社会とも自分とも向き合うことをあきらめずにベストを尽くすことの繰り返し、それは誰もに同じく与えらえられた人生の醍醐味ではないでしょうか。