残業はしない主義。時間内にできないものは「捨てる」

――女性が昇進に抵抗がある理由に「ワークライフバランスが崩れること」がありますが、浅井さんは仕事と私生活をどのようにバランスを取っていますか。

浅井 私は新入社員のころから今まで、ほとんど残業はしたことがないんです。それは私の育った環境によるのだと思うのですが、子どもの頃から、祖母、両親、兄妹の三世代が揃って団らんをしながら夕食と取るのが当たり前でしたから、家族と夕食を食べるのが当たり前のことなのです。子どもができたから早く帰るのではなくて、もともとそういうスタイルだったんですね。

 大切なのは、時間の制約があるなかでも「今の自分に何ができるか」ということをちゃんと理解して、それをチームとか上司と共有し、合意、信頼関係をつくることなんです。自分の時間は、できる限り自分でコントロールするということをとても意識しています。

 今でも会食などがない限り、基本は17時に帰ります。朝は9時出社です。もちろん朝食会や出社前にメールをチェックしたり、外資系なので夜、電話会議があったりすることもありますが。

――でも重要な決定をするときなど、時間内に終わらないこともあるのでは?

浅井 それも時間内に行います。そして9時5時でできないことはやらない。捨てるんです。ただ考え事は常にしていますよ。スポーツクラブで運動していても会社のことは考えています。でもいわゆる仕事は、そんなに集中力も続かないので、時間内だけです。

 私はあまり複雑なことは好きではないのですが、複雑なことを「整理する」のは好きで、ムダなことを捨てることにまったく躊躇しません。メールもムダなものは絶対読みませんし。

――ムダかどうかの判断はどうやってするのでしょう?

浅井 今だったら「それは本当に必要か」が判断基準です。必要ではないなら読まない、やらない、を徹底しています。例えば私が参加した会議なら議事録は不要。「明日までに議事録を提出します」と言われたら「それは必要ない」と言いますね。

――仕事上の信条はありますか?

浅井 私はミッション系の中学、高校で学んだのですが、校歌に「咲くはわが身のつとめなり」という一節があって、それがベースの考え方になっています。「どんなところに置かれても、そこでその人の花を開かせましょう」という意味ですが、「こんなところじゃ私の能力は発揮できないわ」と文句を言うのではなくて、置かれたところで最善を尽くすことが尊いのだと思います。

 これまで私は、目の前のことを一生懸命やっていると必ず次の道が開けて、その道は必ずしも平たんな道ではなかったけど、とにかく前へ前へとポジティブなマインドセットでやってきました。大変な場面でも「大丈夫、私、できる」という心の声を感じながら、自分をコントロールできるようになりました。

 当社は今、大きな変革期を迎えていて、社員のなかには不安を抱えている人や、変化のスピードが速くてついていけない人もいると思います。でも我々がその変化を良いものとしてとらえ、柔軟な姿勢をもち、「こうあるべき」ではなく、変化に対して「ではどうする」と頭を切り替えることがすごく大事です。

 先が予測できない世の中で、コントロールできないことを悩んだり、わからないことを予測したりというのは無駄な時間。だからわかっていることを最大限やって、もし状況が変わったらそれに合わせればいい。そこであまりクヨクヨしないことが大切です。

「ピープル・リーダー」を育てるのが目標

――そのような大きな変化の中で、リーダーに求められる条件はなんでしょう?

浅井 今、GEでは「ピープル・リーダー」という新しいリーダーシップスタイルを提唱し、チームを持っている社員向けに研修を行っています。ピープル・リーダーとはトップダウンのコマンドコントロール型のリーダーではなく、いかに人のやる気やチームの総合力を高めるか、指示待ちではなくて自分から動ける人を育てられるリーダーということです。

 どれだけ社員がピープル・リーダーとなって動いてをくれるのかなと、今は期待を込めて見守っています。

――日本は女性役員がまだ少ないのですが、増やすためにはどんなことが必要だと思いますか。

浅井 まだまだ絶対数が少ないですからね。今の役員の女性と、これから役員になる可能性のある女性がもっと知り合って、お互いに理解し、交流、ネットワークづくりをしていく必要があると思います。社内では限界があるので、業界とか業界横断的な規模の交流で、単発イベントで終わらず、会い続けることが大事です。

 また、私がしてもらっているように、役員に昇格させたら「あとは頑張ってね」ではなくて、周りの人がどれだけその人を支えるかということも大切です。自信がないと全力を出せないし、成果も得られないいので、ヨロッとしたら周りで支える人がいることが大事。就任前後にGEのOB/OGの方々にあいさつに行ったときも、みなさんから「思いっきりやれ」「憶する必要はない」「とにかく楽しんで」と言われ、すごく勇気をもらいました。

――最後に管理職や役員を目指す女性にエールをお願いします。

浅井 自分の可能性を信じてほしいです。周りがどうであれ「これはできる」と信じることです。私は3人兄妹の末っ子で、幼い頃は兄や姉の後をついていくばかりで、リーダーシップなんてありませんでした。

 今の自分を作ってくれたのは仕事の環境だと思うんです。性格は変わらなくても、「リーダーシップはスキル」なので、自分で意識して意欲をもって学び続ければ、必ず手に入れることができると信じています。

 また、次の世代の女性たちがもっといい働き方ができるように、「自分がロールモデルになるんだ」と自覚して、その重要さを感じてほしいと思いますね。

インタビュアー:麓幸子=日経BP総研フェロー、取材&文:船木麻里、撮影:大槻純一

【アクセンチュアの視点】
 外資系企業の間を自身の専門性に導かれるように転職を重ねながらステップアップ。その過程でチームを持ち、人を育て、ともに成長していく「リーダーとしてのスキル」を培ってきたと浅井さんは指摘しています。多岐にわたる事業部が国境を越えて複雑に絡み合うGEというビジネス環境の中で必要なサポートを得るネットワークを築くために、ひとつひとつの信頼関係の構築が大切ですと浅井さん。
 「どんなところに置かれても、そこでその人の花を開かせる」という信条そのままに自分自身にも自信を持ち、信頼を寄せることから、信頼を獲得することで得られるものの大切さを教えていただいたと思います。